軽ければいいってものではない!? 軽量化の盲点とは?

盲点1:静音と振動の低減

軽量化というテーマは、自動車みたいに「動くもの」にとっては絶対的な”善”。ほかの機能を損なわないなら、どんな技術者だってかぎりなく軽く造りたいというのが本音だ。しかし、量産車をリーズナブルな価格で提供するには、そこにコストという壁が立ちはだかる。レーシングマシンや航空機みたいに、全部CFRPで造るなんて贅沢はできない。

ま、そこで技術者の知恵とアイデアが問われるから面白いんだけど、軽くできたのはいいけれど別なところに不具合が出ちゃいました、ということがままある。最もありがちなのが、NVHの悪化だ。「ノイズ・バイブレーション・ハーシュネス」、これを略してNVHと呼ぶんだけど、この3つはすべて振動に関係している。

ノイズは空気の振動。バイブレーションは主にパワートレーン系から発生する振動。ハーシュネスは一般的にタイヤから伝わる振動。要するに、すべてが振動に起因する乗員への影響なんだけど、これが軽量化とトレードオフの関係にあって、双方をうまく満足させるのが難しい。

まず、クルマの静粛性というのは防音材と遮音材に依存するところが大きい。アンダーコートやフロアマットなどをすべて剥ぎ取ったレーシングカーに乗ってみるとよくわかるんだけど、裸のクルマってのは騒音のカタマリ。たとえ、エンジンやマフラーなどがノーマルでも、遮音材を適切に使わないととても実用にならない。

軽量化というのは、まず「余計なものを削る」ことから始めるのが基本だけど、軽量化優先で必要な遮音材まで削っちゃうと、静粛性を悪化させて逆に商品性を下げることになる。パワートレーン系も、軽量化と静粛性・スムーズネスの両立は難しい。

現代の熱効率重視エンジンは、CAEC(コンピュータ支援エンジニアリング)ソフトをグリグリ回して、ムービングパーツやブロックの剛性を軽量化・最適化している。こういうトレンドでは、どうしてもエンジン騒音の低減は優先順位が低くなる。直噴インジェクターの作動音やブロック壁面からの、あるいはCVTのチェーン音などを抑えるため、パワートレーン周りにもウレタンなどの遮音材を貼り付けるケースが増えている。

足回りから伝わってくるハーシュネスは、いちばん厄介かもしれない。量産車でモノコックボディを軽くするのには、高張力鋼板を使って板厚を薄くする(あるいはブレースなどを省略する)のが常道なのだが、「薄くて硬い鉄板」は路面から入ってくるショックに対して、ピリピリと敏感になる傾向がある。また、ブレースを省略して一枚板にすれば、当然その部分のセルフダンピング性が低下してしまう。

鉄板の振動はイコール空気の振動となって騒音となり、微妙にザワザワした印象が残ってしまうワケだ。だから、軽さとNVHを両立させようと思ったら、剛性や強度だけではなく振動の問題を一緒に解いていかなければならない。レーシングカーや航空機の場合は、予算もたっぷりあるし、優先順位は明確なワケだから、このあたりはむしろ量産車の軽量化のほうがずっと難しいかもしれませんね。

レーシングカーはCFRPをふんだんに使うことができる。軽量化による運動性能の効果は高いがその価格は数千万円にのぼる……

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