日本の国内自動車生産台数は1990年に1349万台に達しており、当時世界一の生産能力を持っていた(その後、景気の悪化と大幅な円高で急速に縮小)。
そんな時代、新車市場はいろいろと「やりすぎ」なクルマたちが多く用意されていた。
そうしたクルマはもちろん後継車を遺すことなく生産終了となってしまったし、どう考えても21世紀の現在、再販は難しい。それでもこうしたクルマがあったことで、日本の自動車産業は大きく発展したし、何より自動車文化は豊穣だった。
そんな、今からわずか20〜30年前に新車として活躍していた、日本車の文化を豊かにしたクルマたちを6車種紹介します。
文:片岡英明
■マツダ ユーノス・コスモ(4代目) 1990〜1996年
1989年、マツダは「EUNOS」チャネルをスタートさせた。そのフラッグシップとして送り出されたのがロータリーエンジンを積むコスモである。
1990年4月、ロードスターに続いて発売を開始した。消費税の導入に合わせて3ナンバーのワイドボディを採用し、頂点に立つのは世界初の3ローターロータリーエンジン搭載車だ。インテリアも超ゴージャスだった。
オーストリア製の本革シートやイタリア製の天然木を採用し、GPSナビまでも用意している。今ではこんな贅沢できない。
マツダはソアラの成功に触発されてユーノス・コスモを送り出したが、販売は伸び悩んだ。その理由のひとつは、時代の風が高級スペシャルティカーではなく、GT-Rのような高性能スポーツクーペや身内のロードスター、高級・高性能セダンに吹いていたからである。
また、こだわったデザインと高度なメカニズム、カネのかかった装備がチョット見にはフツーに見えてしまった。バブル期だから出せた悲運の名車である。
■三菱 パジェロ・エボリューション 1997年
1990年代、パジェロは元気いっぱいだった。当時、テレビの地上波で放映されていたパリ・ダカールラリーで常勝を誇り、イケイケだったから2代目はバリエーションを積極的に拡大している。
当時4WD車で最多の販売台数を誇り、1997年には累計150万台生産の偉業も達成した。
この勢いを駆って1997年10月にスパルタンモデルを投入する。パジェロのショートボディ、メタルトップZR-Sをベースに開発された「エボリューション」だ。パリ・ダカのホモロゲーション取得を目的に発売された。
パジェロ・エボリューションは、三菱のエンジニアが技術の粋を集めて開発したコンプリートカーだ。
その精悍なルックスに目が行ってしまうが、シャシーとサスペンション、そして3.5LのV型6気筒MIVECエンジンまでもが徹底的にチューニングされている。実際、ステアリングを握ってみると、その素晴らしい出来栄えに感激したものだ。
今の三菱では体力的に難しいが、昨秋の東京モーターショーに出品した「e-エボリューションコンセプト」を見てしまうと、新世代のエボも夢じゃない!?
■スバル アルシオーネSVX 1991〜1996年
鬼才、ジョルジェット・ジウジアーロが基本デザインを手がけた異色の4WDスペシャルティカーで、1991年9月にデビューした。
スバルのフラッグシップクーペで、エンジンは3.3Lの水平対向6気筒DOHCだ。このフラット6は驚くほど滑らかで、高回転まで気持ちよく回った。
ハンドリングも今のクルマに負けていない。センターデフに電子制御LSDのVTD-4WDによって意のままの軽快な走りを楽しめた。
エンジニアの情熱が伝わってくる魅力的なスペシャルティカーだったが、発売直後から販売は伸び悩んだ。スバルの販売店が高級スペシャルティカーの客層を持っていなかったし、新たな客を取り込むのも得意ではなかった。
実力は高かったが、400万円に迫る販売価格も足かせとなっていた。
また、バブル景気に惑わされ、開発の途中で無理やりボディを手直しし、大排気量エンジンを積んだ。これもSVXにとっては逆風となっている。
もしスバルが本気になって、今の技術で開発し、発売すれば、いいスペシャルティカーが誕生するだろう。
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