スバル渾身のアルシオーネSVXはなぜ時代の徒花となったのか? 【偉大な生産終了車】

スバル渾身のアルシオーネSVXはなぜ時代の徒花となったのか?  【偉大な生産終了車】

 毎年、さまざまな新車が華々しくデビューを飾るかげで、ひっそりと姿を消す車もある。

 時代の先を行き過ぎた車、当初は好調だったものの市場の変化でユーザーの支持を失った車など、消えゆく車の事情はさまざま。しかし、こうした生産終了車の果敢なチャレンジのうえに、現在の成功したモデルの数々があるといっても過言ではありません。

 訳あって生産終了したモデルの数々を振り返る本企画、今回はスバル アルシオーネSVX(1991-1997)を振り返ります。

文:伊達軍曹/写真:SUBARU、ベストカー編集部


■美しい外観と上質なボクサー6を兼ね備えたスバル究極の1台

 ほぼ同世代にあたる3代目トヨタ ソアラや4代目日産フェアレディZのみならず、初代BMW 8シリーズすら競合として視野に入る存在感と走行性能を誇ったスペシャリティクーペ。それが、1991年から1997年まで販売されたスバル アルシオーネSVXです。

 最大の特徴は、なんといっても巨匠ジョルジェット・ジウジアーロのオリジナルコンセプトに基づく斬新なデザインでしょう。

ジウジアーロ率いるイタルデザインの手によるデザインは「流麗」の一言。サイドウィンドウのラインに入ったラインは一際特徴的だ

 水平対向エンジンならではの低いノーズと、ルーフ以外の360°全面をガラスで覆った、まるで航空機のキャノピー(操縦席を覆う天蓋)のようなキャビン。そのサイドウインドウには、ルーフ部分まで回り込む複雑な三次元曲面ガラスが採用されています。

 この「グラスキャノピー」を実現させるため、ピラー(柱)はすべてガラスの内側に存在しているのがデザイン上の大きな特徴です。

 徹底したフラッシュサーフェス化(ボディ表面の段差を極力なくすこと)により、空力抵抗係数も0.29という抜群の数字をマークしました。

 そしてもちろんアルシオーネSVXは「デザインだけの車」ではありません。

 エンジンは新開発の3.3L水平対向6気筒「EG33」。これは北米向けレガシィの2.2L水平対向4気筒SOHCに2気筒を加え、さらにはDOHC24バルブ化したもの。

 低回転域から高回転域までひたすら豊かなトルクが発生し、なおかつきわめて静かでもあるという「最高の6発」でした。

 そして6気筒ゆえノーズは重いのですが、これまたきわめてスムーズに気持ちよく曲がってくれる車でもあったのです。

 駆動方式は(スバルですから)当然4WDで、通常時フロント35%/リア65%というトルク配分を走行状況に応じて電子制御で変化させるVTD-AWD(不等&可変トルク配分電子制御AWD)を採用していました。

■なぜ消滅? 今なお愛される名車が直面した2つの悲運

 以上の通り、かなり素敵なスバル アルシオーネSVXなのですが、なぜ1代限りで生産終了となってしまったのでしょうか?

 理由のひとつはバブル景気の終焉です。

 後に「バブル」と呼ばれた異常な好景気は、1990年3月に大蔵省(当時)が通達した「総量規制」を発端に崩壊へと向かいました。しかし1990年頃の世の中は、実はまだまだ浮かれていました。本格的に暗転したのは1991年秋頃のことです。

 そしてなんとも間の悪いことに、そんな景気後退側面の超直前である1991年9月に、スバル アルシオーネSVXという「高級パーソナルクーペ」はデビューしてしまったのです。……普通に考えて売れる可能性ゼロなタイミングでした。

「SVX」は「Subaru Vehicle X」の略。「大人の豊かなパードナルライフを演出する、本格グランドツアラー」というコンセプトを象徴した呼び名だという。スバルの気合の入れようがわかる
「SVX」は「Subaru Vehicle X」の略。「大人の豊かなパードナルライフを演出する、本格グランドツアラー」というコンセプトを象徴した呼び名だという。スバルの気合の入れようがわかる
「SVX」は「Subaru Vehicle X」の略。「大人の豊かなパードナルライフを演出する、本格グランドツアラー」というコンセプトを象徴した呼び名だという。スバルの気合の入れようがわかる

 でも、仮にアルシオーネSVXが1989年頃のバブル真っ最中に発売されたとしても、あまり数は売れなかったでしょう。

 理由はスバルの「ブランドイメージ」です。

 1991年当時のスバル(富士重工)には「高級車を作って売る会社」というイメージは皆無でした。そしてユーザーも高級うんぬんではなく「真面目に作られた頑丈な(でもお手頃価格な)車」を求めていました。

 そこにいきなり「ジウジアーロがデザインした高級クーペですよ!」と持ってきても、反応する人はいなかったのです。いや「いたけど、その数は少なかった」ということです。

 そして富士重工という会社自体も、当時は高級車を売るためのノウハウをまるで持っていませんでした。

 その結果、アルシオーネSVXという名車は一度も本格的なマイナーチェンジを受けることなく、だましだましの特別限定車をリリースしながら、その短い現役生活を終えました。

 でも、当時のスバルがこの車に付けた「500miles a day」というキャッチコピー、つまり「1日に800kmは余裕で走れます」というのは正真正銘の事実です。

 その証拠にアルシオーネSVXの中古車は今もけっこうな高値で取引されており、なかには「SVXから別のSVXに」と乗り継いでいるユーザーさえいるのです。

販売終了から20年近くが経過しているが、今なおSVXを愛し、乗り継ぎ続けるオーナーは数多く存在する

■スバル アルシオーネSVX主要諸元
・全長×全幅×全高:4625mm×1770mm×1300mm
・ホイールベース:2610mm
・車重:1620kg
・エンジン:水平対向6気筒DOHC、3318cc
・最高出力:240ps/6000rpm
・最大トルク:31.5kgm/4800rpm
・燃費:7.0km/L(10・15モード)
・価格:399万5000円(1991年式バージョンL)

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