ミニバンが低床になって得することとエンジニアの工夫

ミニバンが低床になって得することとエンジニアの工夫

 近年のミニバンは、アルファードやヴェルファイア、そして7月に登場した改良型セレナなど、迫力あるフェイスに、ボリュームあるボディスタイルがトレンドとなっています。が、ひと昔前のミニバンでは「低床化」というキーワードが流行していました。

 なぜミニバンを低床化する必要があったのでしょうか。そこにはどうしても低くしたい、という、クルマを作る側の事情があったのです。元自動車開発エンジニアの筆者がご紹介します。
文:吉川賢一 写真;ホンダ、ベストカー編集部


■一番の目的は「走行安定性と居住性の両立」

 風が強い日に、背の高いミニバンで高速道路などを走行すると、風にあおられて恐怖を感じることがあるかと思います。背が高くなると、横から風が当たる面積が広くなるため、横風の影響を受けやすくなります。クルマを作る側としては、できるだけ、横から見た時の面積を小さくし、横風といった外乱に対する安定性を高めたいのです。

ミニバンは側方面積が大きいため、横風の影響が大きい。そのため車高を低くすればするほど走行安定性が向上する効果が大きいのだが…

 また、クルマを前から見たときの「前面投影面積」の大きさは燃費に影響します。クルマが前に進むときに風を受ける面積「前面投影面積」を小さくする程に空気抵抗は小さくなり、燃費が改善する傾向になります。僅か数%でも前面投影面積を小さくできれば、燃費改善には効果的なのです。

 このように、ミニバンに限らず、クルマは「走行安定性」だけを考えたとき、背を低くしたくなりますが、それではミニバンに求められる「居住性」が犠牲になってしまいます。そこで、「安全性」と「居住性」の両立解として「低床化」が進められたのです。

■どうやって実現しているのか?

 通常、車の床下には、燃料タンクやサスペンション、マフラーやサイレンサーなどの大物部品が配置されています。これらの部品は、単純に小さくすることはできない部品ばかりのため、各メーカーはそれぞれの工夫を凝らしています。

 ホンダは「低床ミニバン」というコンセプトのもと、オデッセイを筆頭に、ミニバンの背を下げた分、床を下げるレイアウトを推し進めました。燃料タンクを、スキマを有効活用できる形に成型できる樹脂製にし、排気管などの位置をずらしてスペースを確保する、などのパッケージワザで、オデッセイの室内高は1,300mmを確保しています。また、トヨタは燃料タンクをフロントシートの下に置く設計に変え、燃料の容量を変えず、低床化を実現しています。

写真はホンダ・フリード。センタータンクレイアウトを採用して低床化と室内の居住性を確保した

■その他のメリット(1)乗り降りがしやすい

 3世代の家族が利用することも多いミニバン、お年寄りや小さな子供にとって、背の高いクルマに乗り込むのは大変でした。低床化したミニバンなら、乗用車とほぼ変わらない高さで乗り降りもしやすくなります。特にミニバンは天井までの高さがあるので、子供は立ったまま、お年寄りも体を大きく曲げることなく乗り込むことができます。

■その他のメリット(2)ボディモーションが改善する

 普通、クルマは天井部まで金属で作られているため、背が高ければ高いほど車両重心が高くなります。一般的なセダンでは重心高は地面を0mmとすると450~550mm程度、ミニバンだと600~700mm程度あります。車両重心が高いと、コーナーでの車体の傾きが大きくなったり、ブレーキングで前に傾きやすくなったりと、「ボディモーション(車体の傾き)」が大きくなります。車体が大きなミニバンは、そのボディモーションの増加が顕著となり、コーナリングでのふらつきは、セダンよりもシビアに悪化します。

 コーナーでの傾きを低減するには、スタビライザーやスプリングといったサスペンション設定を固める必要がありますが、これらは乗り心地に影響を及ぼします。車両重心が高いほどに、サスペンションを固める度合いが増えるため、路面からの衝撃がダイレクトに伝わってしまい、乗り心地が悪化するのです。このように、車両重心の高さを他のコンポーネントで補おうとすると、他の性能への跳ね返りが起きてしまいます。そのため、車両重心を下げることができる低床化は、大きなメリットだったのです。

低床化は荷物の積み下ろしも楽だし乗降性も上がり、走行性能もよくなり、見た目もよい。そのいっぽうで室内居住性が犠牲になりがちで、そのためエンジニアは苦労している

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