徳大寺有恒氏の美しい試乗記を再録する本コーナー。今回は、日産史上ユニークさでは最高峰にあるエクサを取り上げます。
パルサーの名前を取り、独立車種となって登場したKN13型はクーペのほかにキャノピーと呼ばれるステーションワゴンのようなボディを持ちながら、フルオープンにもTバールーフにもなる着せ替え可能なモデルがあり、クルマファンの度肝を抜いたのだった。
徳さんも大いに評価した’86年12月10日号の試乗記を振り返ろう。
※本稿は1986年12月に執筆されたものです
文:徳大寺有恒
ベストカー2016年6月10日号「徳大寺有恒 リバイバル試乗」より
「徳大寺有恒 リバイバル試乗」は本誌『ベストカー』にて毎号連載中です
(※当ページ写真のキャプションに誤記がありました。謹んで訂正いたします。ご指摘ありがとうございました 2018 3/7 20:45)
■日産が86年に示した、オープンマインドスペシャルティの萌芽
新しいエクサはスペシャルティカーの楽しみを広げているところに価値がある。スペシャルティカーというクルマはまず、スタイルが美しく、スポーティだ。
次にハイパワー、グッドハンドリングでドライビングプレジャーを与えてくれる。この2つのためにスペシャルティカーは多くのクルマ好きに支持されてきた。
しかし、エクサはこの2つに加えてオープンエアドライブを楽しめる。さらにクルマ自身の変身が万能で、ユーザーは気分とそれに伴った生活感を変えることができる。こいつは新しい価値を持ったクルマだと思う。
たしかに、大きなリアハッチやキャノピーをどこに置くんだ? という貧しい事情が日本にはあるが、これがアメリカ(まさにこのクルマはアメリカ向けに企画されたのだ)であれば、問題はなく、2つのハッチを相互に取り替えることすらできるのだ。
エクサはカーデザイナーとスタイリストのひとつの案を生産というカタチで大メーカーが実現した。
過去、この種の実験や提案は少なくはなかったが、実験と生産は根本的に違う。生産に結びつけた日産はその勇気を誉められてしかるべきであろう。
近い将来、この種のクルマはけっこう多くなるだろう。オープンマインドは日本でこそまだまだだが、アメリカやそのほかの先進国では(再びというべきだろうが)高まっているのだから。
エクサのスタイルは3つ。基本はクーペとキャノピーで、それぞれノッチバックとスポーツワゴン風で、取り外し可能なハッチを持つ。そしてルーフがTバーとして外れ、クーペ、キャノピーともにオープンとなる。これで都合3つだ。
アメリカではクーペとキャノピーの互換性があり、両方楽しめるが、日本では許されないのは残念だ。
■ツインカム搭載の乗り心地はしっとり
エクサのボディウエイトは5MTモデルでキャノピー、クーペともに1070㎏と1.6Lクラスにしては相当に重い。だからせっかくのツインカムエンジンCA16DEをもってしてもシャープな切れのいい加速とはいかない。むろん、遅くはない。
1.6Lとしては納得できる加速だと思うが、ライバルとなるシビックSiやカローラFX GTよりは0~100km/h加速や0~400m加速のタイムは遅いかと思う。
しかし、そのことはエクサにとって大きなハンデキャップにはならないと思う。加速はそれほどでもないが、気持ちよさは充分だからだ。
CA16DEエンジンの4500rpmあたりからレッドレブとなる7500rpmまでの吹け上がりの気持ちよさは、さすがツインカムエンジンなのだ。
シフトフィールは悪くないがセカンドとサードのステップ比が大きい。これがもう少し狭くなるともっといい。とにかくエクサは自然吸気ゆえの気持ちよさを持っている。
エクサはパルサーベースでFFだ。このFFのハンドリングが実によくしつらえてあるのだ。スティアリングを切る。じわっとロールが起こる。ノーズが曲がり始める。リアが利き始めるとロールはいっそう深くなり、クルマはコーナーをハイスピードで駆け抜ける。
この一連の動作がとてもスムーズで気持ちいい。ただし、その乗り心地は軽快というより大人びたものだ。このクラスのスポーティカーと比べると俊敏ではないが、かといって鈍くもない。
エクサはとても楽しめるクルマだ。オープンエアドライブはやはりクローズドボディでは味わえない世界を見せてくれた。エクサは少々高価だ。
キャノピーのATの上級モデルは200万円を超え、1.6Lクラスでは最高のプライスタッグがつく。
しかし、けっこうよく走ってハンドリングが面白くて、しかもかっこよく、かつオープンも楽しめるとなるとエクサしかない。そう考えるとエクサは高いだろうか?
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