徳大寺有恒氏の美しい試乗記を再録する本コーナー。今回はトヨタのセラを取り上げます。
バブル時代には楽しいクルマが数多くありましたが、“庶民の手に届くスーパーカー”といえば、トヨタがスターレットをベースに作り上げたセラでした。
160万円(編集部註:5MTモデルの価格。ATモデルの価格は167万5000円)でガルウイング採用と、採算度外視!? のプライスは、当時大きな話題に。
広大なガラス面を持つキャノピー感覚のコックピットも新鮮で、販売面こそ振るいませんでしたが、記憶に残るモデルとなりました。徳さんも大いに感心した1990年4月26日号の記事をリバイバル。
文:徳大寺有恒
ベストカー2017年3月26日号「徳大寺有恒 リバイバル試乗」より
「徳大寺有恒 リバイバル試乗」は本誌『ベストカー』にて毎号連載中です
■トヨタ流、MIRAIの描き方
セラを見て、セラに乗って驚いたのは、このクルマのデザインが相当なものだということ。そして、そのデザインを生かすべく、おそらくデザイナーの期待通りに製品化した生産技術のすごさである。
セラは2年半前(編集部註:1987年)の東京モーターショーに出品された。その時はトヨタのBe-1かぐらいにしか思えなかった。しかし、トヨタは2年半の時間をかけ、月間1000台継続生産することに決めた。これがトヨタ流なのだそうだ。
セラは、いわゆる遊びグルマだと思う。スポーツカーとは少し違った、いわゆるプロムナードカーともいうべき遊びの要素が勝ったクルマだ。
しかし、そこはトヨタ、いかにもトヨタらしく、しっかりと作ることにした。
Be-1、パオのレトロチックなスタイルで、プラスチック多用のクルマ作りも私は否定しない。そいつもあっていいと思う。しかし、Be-1、パオはクルマとして本格じゃない。セラはその本格を狙ったのである。レトロなスタイルをとらなかったことも本格を目指したからにほかならない。
セラのデザインはアドバンスの方向である。近い将来のスポーティカーを予測させる(すべてがこうなるとはかぎらない)ものだ。
セラの未来ぶりは、このクルマを一般道で走らせてみるとよくわかる。誰もがオヤッと思って振り返る。しかし、乗っているほうは相当たいへんだ。妙に気恥ずかしい。まるで金魚鉢に入って周りから見られているようなものだ。
ご自慢のガルウイングドアだが、こいつはデザイン上の必然性はあっても、機能的な要素じゃない。ドアは2つのヒンジで前方へ開く。どちらかというと昆虫が羽根を立てたようなスタイルである。
気になるドアの開閉はダンパーを使っているので思ったほど重くない。女性でも楽に開閉できる。
セラの室内はブルーグレイの綾織りのファブリック。せっかくのエクステリアデザインに対するものとしては少々普通すぎる。
セラが惜しいと思うのはそのあたりなのだ。言ってみれば遊び心がもうひとつ足りないのだ。大人の遊び心に満ちたアバンギャルドなデザイン、例えばルノー5ターボシリーズのようなインテリアがあればいいと思う。
あれは、確かイタリア人のベリーニの作だったと思う。たぶん、コストという日本でのメーカーの正義が、このクルマをあと一歩のところで面白くなくしているのだろう。
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