徳大寺有恒氏の美しい試乗記を再録する本コーナー。今回はプジョー 205ターボ16を取り上げます。
WRC(世界ラリー選手権)・グループBへの参戦を目的に作られたプジョーのロードカー、205ターボ16。当時の4WDのイメージを根本から変えてしまったアウディ・クアトロに触発され、自身も4WDを選択、さらにミド(車体の中心付近)に1.8Lターボエンジンを横置きに搭載しました。
当時ミドシップの4WDというレイアウトは前例がなく、そのため技術的問題も含めプジョー社内でも大きな議論を呼んだと言います。
しかし、この決断はプジョーにWRCでの大成功をもたらし、またミドシップ4WDという設計手法は、後のグループBにおけるマシンレイアウトの「王道」と呼ばれるまでになりました。
徳さんがフランスに渡ってこのモンスターモデルに試乗した、1984年7月号のベストカーガイドの記事からリバイバル。
文:徳大寺有恒
初出:ベストカー2017年3月10日号「徳大寺有恒 リバイバル試乗」より
「徳大寺有恒 リバイバル試乗」は本誌『ベストカー』にて毎号連載中です
■レスポンシブ豊かに、オートルートを駆け抜ける
パリ郊外のマナシー工場から走り始める。背中では4気筒ツウィンカム、フォーヴァルブターボの最高出力200馬力/6750回転、最大トルク26.5kgm/4000回転のユニットが相当やかましく吼えている。
高速道路に入ると、プジョー205ターボ16はその敏捷な本性をすぐ現す。とにかく80km/hあたりからぐいっと加速し、あっという間に160km/hに達する。全体の流れが速いフランスのオートルート(高速道路)だが、ほかのクルマを動くパイロンに見立てて、右へ左へとみずすましのごとく走る。
1775ccエンジンは3000回転あたりから、ハッキリとターボの存在を感じるけれど、本物になるのは、4500回転以上で、ここからは文字通り、カムに乗る。レーシングユニット独特のクォーンという心地よい音と少々のヴァイブレーションを伴って、グイグイと加速する。
スピードメーターの針はどんどん上がり、170km/hから180km/hまでは圧倒的な勢いで達し、そこからやや時間を要して200km/hになる。
レヴカウンターは7300回転あたり、レッドレヴが7500回転だから、ドンピシャのギアレシオである。
プジョーがこのWRC用ミドシップ4WDマシンの開発を思い立ったのは、1981年頃だという。むろんそれは1980年春に発表されたアウディ・クアトロのアイデアに触発されたものであるが、彼らはアウディ・クアトロがフロントヘビーのFWDベースであることが気に入らなかった。
そして、プジョー・タルボスポーツはミドシップレイアウトこそ、4WDスポーツの最も理想的なレイアウトであると主張している。
プジョー・タルボスポーツの意欲作は1983年のフランクフルトショーで発表された。エンジン横置きのミドシップレーシングカーであった。
そして、翌1984年ジュネーブショーで、プジョー205ターボ16として発表された。完全なグループBマシンであり、FIAのホモロゲーションを獲得し“量販車”が200台作られ、そのいっぽうで、ワークスチームのほうは320〜350馬力までスープアップされたエンジンを搭載し、名手アリ・バタネンのドライブによってツール・ド・コルスからWRCにデビューするところまでこぎつけた。
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