新型N-VANの実力と勝算 軽商用界に革命を起こせるか!?

新型N-VANの実力と勝算 軽商用界に革命を起こせるか!?

2017年度に国内で最も売れたホンダ N-BOXをベースに開発された軽商用バンのN-VANが、2018年7月13日に発売された。疑問に思うのは「なぜN-BOXをベースに商用車を開発したのか」だ。

従来とは異なるアプローチで挑んだホンダの新たな“軽バン”は、商用車としてライバルを破る可能性を秘めているのか? それともN-BOX的な軽乗用車に近いキャラクターなのか? その立ち位置、実力を実車試乗で検証した。

文:渡辺陽一郎/写真:茂呂幸正


なぜホンダはN-BOXで“軽バン”を作ったのか?

エンジンをボンネットに収めるN-VAN(左)と、エンジンを床下に収め、後輪を駆動する典型的な軽バンのアクティ(右)

背の高い軽商用バンは、スズキ エブリイとダイハツ ハイゼットカーゴが売れ筋で、この2車種はスペーシアやタントのような乗用車とは基本設計が異なる。エンジンをボンネットの中ではなく前席の下に搭載して、後輪を駆動する方式だ。

そうなれば室内長が伸びて、荷室容量も拡大しやすい。荷物を積んだ時には後輪の荷重が増えるから、後輪駆動であれば駆動力の伝達効率も高まる。N-VANの前身となるアクティバンも、エンジンを荷室の下に搭載して後輪を駆動した。

それをN-BOXベースに改めたのは、開発や製造のコストが高いからだ。エブリイはスズキ車だから販売網は強力だが、それでも日産、マツダ、三菱にOEM車として供給される。ハイゼットカーゴもトヨタとスバルが扱う。

OEMを活用して大量に売らないと、独自設計の軽商用車は採算が取れず、OEM関係を結ばないホンダは不利になる。そこで新型は専用開発を行わず、大量生産されるN-BOXをベースに合理化された。

軽バンに対してN-VANのデメリットはある?

助手席ダイブダウン時は2635mmという荷室長を誇るN-VAN。ただし、後席+ラゲッジの荷室長では1510mmは前任のアクティバンと比べて短くなる

ただし、N-BOXがベースになれば、エンジンはボンネットの内部に収まるから、N-VANの荷室長は、アクティバンの1725mmと比べて200mm以上も下まわる。

長さが1700mm、幅が1100mmのパレットは、アクティバンには積めてもN-VANの荷室には収まらない。

荷室長の不足は、アクティバンをN-VANに変更したことによる最大の欠点だ。いい換えればN-VANには、荷室長の短さを克服できる魅力が求められた。

それが、左側のワイドに開くドアと助手席の格納機能になる。ボディの左側は、中央のピラー(天井を支える柱)を前後のドアに内蔵させ、両方ともに開くと開口幅が1580mmに達する。

タントも似た機能を備えるが、開口幅は1490mmだから、N-VANは90mm幅広い。

助手席も後席と同じように小さく格納できる。1名乗車時に助手席と後席を格納すれば、運転席の周辺がすべて真っ平らな荷室になる。助手席を畳んだ部分の最大荷室長は2635mmと長い。

そして、左側のワイドな開口幅と助手席&後席の格納機能を併用すれば、長い荷物をボディの側面から積める。

小さな荷物がたくさんある時は、側面とリヤゲートの両方から積めるから、作業効率を高めやすい。使い方次第だが、荷室長が短い軽商用バンの欠点をある程度は補える。

ただし、改善すべき点もあり、それは側面衝突時におけるドライバーの安全対策だ。従来の商用車では、ドライバーの側面まで積載空間が張り出した車両はほとんどない。

運転席の左側は助手席だから、常識ではここに加害性を生じるような荷物を積むことは想定されない。

それがN-VANでは、長い脚立とか、極端なことをいえば幅の狭いガラスの扉が付いた食器棚なども積めてしまう。用途によってはドライバーを保護する遮蔽版も必要だろう(ペダルに干渉しないように背の低い遮蔽版は付いている)。

開発者に尋ねると「国土交通省に確認したが、設計上の問題はないといわれた」という返答もあったが、そういう問題ではない。

取扱説明書には、助手席を格納した時の注意点として「重い荷物の積載や運転者の視界を妨げるような積載は避けてください」という記載がある。

視界の指示に従えば、ドライバーの顔面を直撃する背の高い荷物は積載できない。それでも視界を妨げず、重くない荷物が、衝突時に加害性を持つことは考えられる。何らかの配慮が欲しい。

写真は「G・ホンダセンシング」(126万7920円)。「GとLを合わせて約70%」とホンダは販売比率を見込むだけに、主軸となりそうな素の商用グレードだ

裏話的なことをいえば、これは一種の逃げだ。ホンダに限らず、車内の遮蔽版などを標準装着や純正品に採用するには、十分な強度を持たせねばならない。この設計の面倒と価格の上昇を避けた。

しかし、今は昔と違って、安全に高いお金を支払うようになった。古い常識でユーザーを見ずに、安全な小物類を積極的に開発すべきだ。

このほかN-VANでは、後席のヘッドレストが「リヤシートピロー」と表記される。ヘッドレストと表記しない理由を開発者に尋ねると「ヘッドレストの要件を満たせないから、ピロー(枕)と表記した」と返答された。しかもベーシックな「G」と「L」は、リヤシートピローすら非装着だ。

N-VANに限らず商用車は、全般的に安全基準が低い。例えば今では軽乗用車にも義務化された横滑り防止装置は、商用車ではトヨタハイエースにも非装着の仕様がある。

乗用車と商用車で安全に格差を設けるのは間違いだ。これは幼い子どもにも通用する、基本的な善悪の認識に属する。

助手席と後席を畳むと、真っ平らな荷室になって天井も高いから(ハイルーフの全高は1945mm)荷物を積みやすい。

低床設計も特徴で、リヤゲート部分の荷室床面地上高は525mmだから、アクティバンの665mmに比べると140mm下がった。これは前輪駆動のメリットだ。

次ページは : 室内空間のメリットは「一長一短」

新車不足で人気沸騰! 欲しい車を中古車でさがす ≫

最新号

S-FR開発プロジェクトが再始動! 土屋圭市さんがトヨタのネオクラを乗りつくす! GWのお得情報満載【ベストカー5月26日号】

S-FR開発プロジェクトが再始動! 土屋圭市さんがトヨタのネオクラを乗りつくす! GWのお得情報満載【ベストカー5月26日号】

不死鳥のごとく蘇る! トヨタS-FR開発計画は再開していた! ドリキンこそレジェンドの土屋圭市さんがトヨタのネオクラシックを一気試乗! GWをより楽しく過ごす情報も満載なベストカー5月26日号、堂々発売中!