空気が乾燥するこの季節、インフルエンザや、新型コロナウイルスなども脅威ではあるが、帯電体質の方にとっては「静電気」も脅威だ。
不意打ちされ、クルマのドアハンドルで「バッチ!」となるのは何とも嫌なものではあるが、ドライバーの皆さんに最も注意していただきたいのは「給油時」だ。
「静電気除去パッドに触れてから・・・」と必ずアナウンスされているが、日頃から静電気に悩まされていない方の中には「面倒だから端折ってしまっている…」という方もおられるであろう。
知識として、静電気で引火することを知ってはいても、普段の生活ではなかなか意識できなかったりもする。
実際の事故事例を紹介するなかで、「あのアナウンスの大切さ」を再認識するきっかけしていただければと思う。
文:吉川賢一、写真:ベストカー編集部、動画:総務省消防庁動画チャンネル
「バチッ!」となるのが怖くて
神戸市消防局の資料によると、帯電体質の男性ドライバーがセルフスタンドで給油をする際、ドアに触れずに車から降り、同乗していた女性に給油口のキャップをあけてもらおうとした。
しかし女性の力ではキャップが回らず、男性がキャップを回したところ、給油口の金属蓋に放電され、その時発生した火花に給油口から出てきたガソリンベーパーに引火した、という事故があった。
この事故が発生したのは平成13年4月。同じ4月に新潟県のセルフスタンドでも静電気が原因とみられる火災が発生しており、これを受け、同年8月、消防庁危険物保安室より静電気対策についての通達がなされた、との経緯がある。
5~6m歩いただけで引火!?
総務省消防庁の資料によると、給油者が歩いた際に衣類の摩擦で帯電が増加したことにより、静電気が手部と接地抵抗の小さい給油ノズル(金属部分)との間で放電し、スパークによりガソリンベーパーに引火して出火した、との事故事例がある。
給油をするために給油操作をしたが、(ガソリンがでてくる)振動がなかったので、従業員を呼ぶために5~6m周囲を歩いたことがいけなかったというのだ。
ちなみに給油を開始する際も、歩いた後も静電気除去シートには触れていなかったそうだ。ほんの十数歩でも、静電気が帯電することは、覚えておいた方が良い。
ほかにもこんな事例がある
- ・給油終了後、おつりを受け取りに行っている間に、同乗者が燃料キャップを閉めようとして出火
- ・給油をしていたが、一旦停止して別の作業をし、再び給油をしようとノズルに触れた際に出火
- ・バイクのドライバーが手袋をしたまま静電気除去シートに触れたために静電気を十分に除去できずに炎があがった
静電気除去シートに一度触れればよい、というわけではないことが、お分かりになるだろう。ほんのちょっとした気のゆるみが、事故につながるのだ。
フルサービス店舗の店員が「静電気除去」をしない理由
では、なぜガソリンスタンドの店員の方は、静電気除去シートに触れなくてもいいのだろうか。その答えは「ユニフォーム」にある。
フルサービスのガソリンスタンドにいる店員の方のユニフォームは「静電気帯電防止作業服(JIS規格の名称)」の基準を満たしており、静電気が帯電しづらくなっているのだ。
また、常に地面に足をつけていたり、金属の車体に触れていたりする、ということも、店員の方が帯電しづらい理由だ。
いっぽうでドライバーの方は、クルマから降りる際に、シートと衣類が擦れることで帯電しやすい状況にあり、ノズルを触るまで、放電の機会がないことも考えられる。
そのため、必ず静電気除去パッドをタッチすることが必要となるわけだ。
ちなみに静電気は、プラスに帯電しやすい素材とマイナスに帯電しやすい素材がこすれると発生しやすくなる。例えば、アクリルの素材はマイナスに帯電しやすく、ナイロンはプラスに帯電しやすい。
いっぽうで、綿や絹、麻といった自然素材は帯電しにくいため、こすれあっても静電気は発生しづらい。冬は重ね着をするため、帯電しやすい方はこのあたりを意識してみるといいかもしれない。
また、車のドアノブに触るのが怖いときは、一度地面に両手をついてから、ドアノブに触れることをお勧めする。導電性が高いものに触れる前に、土や木、コンクリートや革製品などに一度触れておくと、放電できるからだ。
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