自慢の「リス尻尾の筆」でロールスロイスのエンブレム描きの仕上げを行うマーク氏。 よどみのなさはいうまでもなく。
ピンと張りつめた空気のなか、細い筆先がゆっくり動く。 円状のガラスにはなにか文字が描かれているようだが……この文字はどこかで見たような。
この画像を逆位置で見ると「RR」。そう、ロールスロイスのエンブレムである。 そして、この筆先は「リスの尻尾の毛」。
「天然のものが扱いやすくて、ボクもそうだけど職人はこれを好むんだよ。 人工の筆先は長持ちするけど、筆の跡が残ることもあるので繊細な部分はリスの筆先で描いているよ。この筆一本がいくらかって? それは秘密だよ。ヤハハハハハ!」
と、豪快に笑うのはマーク・コート氏。イギリスのグッドウッド、ロールスロイス本社から先日来日したペインティング担当職人のひとりだ。
「ちなみに、このリスの筆はドイツ製で、ボクのふるさとのイギリス製でないのが残念だよ」と再び笑う。マーク氏、かなり陽気な方だ。
なぜ彼が日本にいるかというとロールスロイス誕生110周年となる今年、その節目を記念してイギリス本社から初めてクルマ作りの職人を日本へ呼んだから。
東京・六本木のイベント会場で、マーク氏は職人技を披露したというわけだ(写真はその一環で、ガラスに描くデモンストレーション)。
ちなみに、会場では最新モデル「レイス」(車両価格/3295万円(税込))などが展示され、日本での販売は2012年度の95台から2013年度は135台と好調で、今年度も順調に推移しているとアジア太平洋GMのダン・バルマー氏は語っていた。
さて、ロールスロイスは誰もが認める超高級車。内装や外装に職人の手がふんだんに使われる、いわば〝匠の仕事〟が結集したようなクルマだ。もともと看板屋さんだったマーク氏が担当するのは、「コーチライン」や小さな絵によるアクセント描き。
コーチラインとは、ボディ側面にフロントからリアにかけて引かれた細い線のことで、披露してくれたリス筆をはじめ多彩な筆を使い、ボディに直接筆を入れて線を引く仕事だ。
「これよりもっと細い2㎜や3㎜の筆先もあるんだよ。塗料はエナメルで、もちろん定規なしで線を引くんだよ」
と、今度はニヤリとするマーク氏。今まで2000台以上のクルマにラインを引いてきたそうで、「最初は緊張したよ」と遠い瞳で語っていた。
彼女は今回来日したもうひとりの職人で名前はハナ・クリアさん。インテリア・レザー装飾の担当で、内装に使う天然革(雄牛の革を使うのが伝統)に専用ミシンで花や生き物などの刺繍を入れるのが彼女の主な仕事だ。
デザインはお客のリクエストにも応え、パソコン上でデザインした後、実際に天然革に刺繍する時間は30分ほどだそうだ。
「でも、私の会社のエンブレムなら2分でできますよ(笑)」とこちらもブリティッシュ・スマイル。
意外といっては失礼だが、陽気で気さくな職人たちがロールスロイスの伝統と魅力を支えているのだと知った。
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