一般的に、昔は4~5年ごと、現在は7~8年ごとに、各自動車メーカーは、それぞれの自動車を完全な新型車へと生まれ変わらせます。フルモデルチェンジといいます。
しかし、そのライフサイクル期間中も、競合する車は続々と登場します。競争力を維持するために行われるのがマイナーチェンジです。
マイナーチェンジは、一般的に、2~3年に1度、多いクルマだと毎年行われ、バンパーやホイールデザインが変更されたり、お得な特別グレードが追加されたりします。
一見すると、マイナーチェンジ前よりも魅力的な商品になったように見えますが、実はこのマイナーチェンジには裏側があるのです。
今回は、あまり知られていないマイナーチェンジで行われていることについて、元日産自動車エンジニアの筆者が、こっそりとご紹介します。
文:吉川賢一
写真:ホンダ、日産、レクサス、三菱、マツダ、ベストカー編集部
フルモデルチェンジが頻繁にできないワケ
クルマは発売を開始した直後が、最も多く売れます。その後、販売台数は徐々に下降線をたどり、売れ行きは落ち着いていきます。自動車のフルモデルチェンジは開発の都合上、早くても5年、通常7年ほど度はかかります。
次期型車を開発する際には、まず始めに、現行車の反響を収集して課題を明確にしていきます。その課題を解決するために、新たな技術開発が必要な場合、開発に2~3年ほどかかります。
そして、その技術を織り込んで、次期型車のコンセプトを作り、そのクルマが収益モデルとして成り立つのか検討をします。
調査から開発、そしてコンセプト設定、収益モデルの検討といった流れがあり、顧客ニーズに沿ったクルマ作りには、膨大な工ほどが必要になります。頻繁にはモデルチェンジができないのです。
また、昔と違って、昨今はVDCやACCといった先進安全装備などの電子制御系デバイスが一気に増えたことも、少なからず影響しています。一車種ずつ実車適合をする必要があるため、どうしても時間がかかっています。
日産の場合だと、夏場にはニュージーランドへ実験をしに行きます。リアルワールドの雪路面でVDCの動作チェックをするためです。
マイナーチェンジでこんなことが行われている
マイナーチェンジに限ったことではありませんが、メーカーは常々、部品の原価低減を日々狙っています。マイナーチェンジでは、この原価低減を目的に部品が少しずつ変更されています。
例えば、これまで異なるエンジンを使っていた2車種に、新たに両車で共用する新型エンジンが開発され、これまでのエンジンから、取って代わることになったとします。
その場合、これまで2車種がバラバラに使っていたエンジン本体、エンジンマウント、排気系、補器類といった部品が、1種類になります。すると、ひとつの部品をたくさん使うことになり、結果原価低減となります。
なぜ原価低減に出来るのか?
なぜなら、設備の中で最も高いのが金型であり、同じ部品を沢山作るほど、部品一つ当たりの単価を下げることができるからです。
そのため、マイナーチェンジでその新型エンジンを使う車種を、2台、3台と増やしていけば、そのたびに部品費が下がるため、利益率を上げることができます。結果、自動車メーカーは儲かるという仕組みになっているのです。
また、部品の構造や素材を見直して、コストを下げる検討もしています。例えば、アルミで出来ている構造体を鉄に置き換えたり、ウレタンをゴムに置き換えたりと目に見えない部分で原価低減が行われています。
もちろん、性能が下がってしまうことのないよう、厳しい検証実験が行われ、問題のない原価低減アイテムだけが採用されています。
モデルチェンジ手前が最も良いと言われることもありますが、フルモデルチェンジの手前は、原価低減を限界まで織り込んだ仕様であり、最も豪華な状態は、フルモデルチェンジの直後なのです。
実は、マイナーチェンジをするたびに、原価低減によって部品を外したり、安い部品になったりしているのです。
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