現行シビックタイプRはシビックに非ず!? オーナーが語る「○と×」

現行シビックタイプRはシビックに非ず!? オーナーが語る「○と×」

昨年750台限定で発売されたシビックタイプR(FK2)。ベストカー本誌の企画で応募したところ、当選を果たしたBC編集部の塩川。当選したからには買わなきゃならぬ、ということでさっそく購入することに。愛車のBNR32を手放してまで買ったFK2、その評価はいかに!? 買ったからには好き勝手言わせていただきます!!

文:ベストカーWEB編集部/写真:平野学、池之平昌信



「シビックはこうあるべきだ」


タイプRはシビック、インテグラ、そしてNSXのみに設定された超硬派モデルだ。買ったらそのままサーキットを走れるような足回り、そしてVTECエンジンの甲高いサウンドと高揚感あふれる加速感。タイプRというクルマは凄まじい魔力を持っている。

そんなシビックタイプRの血統はセダンとなったFD2型の生産終了で2010年に一度途絶えた。しかし2016年、シビックタイプRは思わぬ形で日本に戻ってきた。それがイギリス生産のFK2型。当時のニュルブルクリンクFF市販車最速を達成した、世界に進出した初のシビックタイプRだ。

ニュルブルクリンクFF最速。その目的達成のためにホンダが選んだパワーユニットはターボ付きの4気筒だった。「VTECはNAでなければならない」。そんな不文律があるのはご存じのとおり。それはGT-Rは直6であるべき、といった感情とも似ている。なんせ塩川、BNR32を所有していたからその気持ちはとってもわかる。R35が出たときもその絶対的性能は認めつつも、どうも心情的に「腑に落ちない感じ」が合ったのもひとりのオーナーとしての心情だった。

ところが仕事柄、日本での市販前にFK2を試す機会に何度か恵まれたことで、そんな不文律を覆すことになる。ワインディング、高速道路などひととおりシビックタイプRを堪能したのだが、この時にすでにターボのタイプRの魔力にやられていたようだ。

その後、編集部の企画で応募したところ当選して購入したわけだが、1年乗ってみたらさまざまな「○と×」が出てきた。今回はそんな現行型シビックタイプRの「○と×」をお届けしよう。


黒と白のコントラストでこれまでのシビックとは違う印象を受けるFK2


大型のリアスポイラー、そしてフロントフェンダーのふくらみなど、空力への新たなアプローチが見られる

次ページ:FK2の3つの「○」とは?



タイプRはもはやサーキットオンリーのマシンではない


いろいろと心情的な思いはあると思うが、とりあえずは1台のクルマとして「FK2」を見ていこう。310psを発揮する直4ターボVTECは、歴代のタイプR至上最高出力を誇り、コンチネンタルのスポーツコンタクト6をもってしても平気でホイールスピンを起こす。いろいろ言われてはいるが、動力性能は間違いなく最強のシビックタイプRである。

「FF市販車ニュル最速」というゴールのためだけに開発されたこのクルマ。旧来からのホンダファンを敵に回すかもしれないが、性能は一線級だと断言したい。まずFK2の「○」を紹介しよう。

1.しなやかな足回りで守備範囲は広し
これは前述もしたがザックス製の電子制御サスペンションシステムの効果。とにかくスムースに上下に動いているのがわかる。「渋さ」があるダンパーも多いのだが、このFK2のザックスはそれがない。まるでBNR32にアフターパーツで入れていたオーリンズのDFVのようだ。しかも「Rモード」にするとその減衰力が固められ、FD2型のようなガチガチの足回りになる。

この足回りの効果が一番感じられるのが首都高。普通に走っていても路面のアンジュレーションをしなやかにいなし、安定したハンドリングを維持し続ける。逆バンクや継ぎ目の凹凸など、バリエーションが豊かな首都高の路面はニュルブルクリンクに似ているのかも!? もちろん市街地のマンホールや、工事後の路面などでも突き上げがなくマイルド。女性ウケもいい。


市街地、とくに都市高速のようなRのきついカーブや、路面の荒れた場所では安心感が高い。法定速度でも充分楽しめる

2.ベースモデルから引き継いだ実用性
歴代のタイプRも同じだがベースがシビックだから実用性が高い。スーツケースやゴルフバッグも入るし、大きなリアハッチだからコストコでの大量買いも心配ナシ。それでいて大人4人がしっかり乗れる。スポーツモデルとしてこれ以上の実用性はない。また燃費も13km/L台は一般道を含む走行でも記録するし、高速道路メインならば19km/Lも記録したことも。決してスポーツモデルとしては悪い数字ではない。


実用性の高さはベースモデル譲りだ。見切りもよく窓も広いから圧迫感は少ない

3.とにかく自慢できる存在
なんせ国内には750台しかない。ざっくりいえば全国の自家用車の総台数(約5980万台)の0.001%しかいない。その希少性の高さで 注目の的になるのも事実。これは次期型が今夏に登場しようとも変わらない事実であり、きっとこれまでで一番レアなシビックタイプRになるだろう(シビックユーロRというレアキャラのライバルはいるが)。

4.採算度外視のパーツ選びに見た「ホンダの意地」
ブレンボのキャリパー、ザックスダンパー、そしてフロアをすべて覆うアンダーカバーなど、ニュルでの速さのためだけに予算を使ったのがFK2。とにかく「走り」の部分へのお金のかけ方が違う。タイヤもコンチネンタルのスポーツコンタクト6を使い、柔らかいながらも"グググッ"とグリップする独特の乗り味を作り上げた。

「速いクルマは乗り心地がいい」。こんな決まり文句を体現しているFK2の影には、とてつもないコストのかけ方があった。新たなアプローチをしたことで、今後の新車開発への新たなステップになるかもしれない。サプライヤーを広げるという意味でも、このお金のかけ方はホンダにとってもプラスだったのではないだろうか。


ターボエンジン採用のみならずひとつひとつのパーツへのコストのかけ方は凄い。どこからでも吹けるエンジンは特徴的だ

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うまく使えなかった「タイプR」ブランド


そしてFK2の「×」を紹介したい。ちょいと厳しいこともズバズバと書いていくつもりだが、ひとりのオーナーの言葉として捉えていただけたら幸いだ。

1.シビックらしくない
これを最初に持ってきてしまうのは憚れるがとにかく「シビック」ではない。デカイ、重い、高い、そしてターボ。全幅1880mm、この数値を見たときはさすがに腰を抜かした記憶がある。ホンダはNSXにしろ、シビックにしろ、スポーツ車種のヒストリーの重みが大きい。ましてや「タイプR」だ。簡単にその名を使おうものならファンは「ホンダ許すまじ」になってしまう。

例えば並が400円の牛丼チェーンが、いきなり松阪牛を使い始めて、値段が1500円になったら文句も溢れてくるはず。「絶対に美味しいから高いんです」。「そんなことわかっちゃいるけど……」という反応になるのは仕方ない。消費者にもう少し丁寧なアプローチをすれば「ニュルスペシャルのシビック」というとらえ方をされたのかも。

2.シートがダメダメ
これは長期間使ってわかったが、ドライバーズシートがまったくもって理に適わない。腰の部分がナゼか知らないが反っている。お腹が前に押し出されるのだ。以前あの脇阪寿一さんも指摘していたが、とにかくシートだけはどうにもダメ。先代のFD2型から開発陣が多くの時間を割いてホンダ内製にしたのだが、どうにもこうにも落ち着きが悪い。

ベルトホールにメタル処理をしていたりデザインはなんとなく「タイプR」なのだが、シートは座ってこそ価値が出る物。結局のところは「餅は餅屋」ではないだろうか。ちなみに塩川はブリッドのフルバケットシートに交換済みだ。


脇阪さんも指摘した純正シートの違和感。ホールド性も見た目もいいのだが、長時間座っていると背中が反る印象を受ける

3.限定販売なんて「タイプR」ではない
これはソフト面での指摘になるが、750台の限定販売もよくなかった。だって一般ユーザーは試乗すら許されない。「タイプR」はカタログモデルだから価値があると個人的には思う。FK2はホンダUKの生産で、モデル末期ということもあり販売台数が限定されたというホンダの懐事情はわかる。しかしそこは期間限定の受注生産でもよかったのではないだろうか?

また日本ではチャンピオンシップ・ホワイトとブラックしかカラーが選べないこともよくない。ブルーやレッドといったスポーツらしいカラーが本国ではあるのに。中古車市場でプレミア価格で流通してしまうことも、長い目で見ればタイプRブランドにはマイナスかも。500万円近いプライスはさすがに……。日本生まれのカタログモデルのタイプR。それが出る日はいつか来るのだろうか?


走りのよさを知られぬまま埋もれそうなFK2。このモデルの残したものは大きいはずだ

まとめると、いいクルマ!?


「○と×」でいろいろと述べてきたが、総評としてはこのクルマが存在する意義はかなり大きいと思う。310psのFFマシン。性能でいえば「タイプR」の名に恥じないモデルだ。ニュルブルクリンクへの挑戦は今後も続くようだ。

どうしてもクルマ好きの心情としてはソフト面での違和感は拭えないのも事実。しかしこのご時世にこんな「ぶっ飛んだ」クルマを作ってしまうあたり、まだまだホンダスポーツの灯火を消さないぞ!! という決意も見える。次期型はきっとカタログモデルになるはず。

価格は500万円前後と従来のシビックとは異なる価格帯になってしまうだろう。しかし、ぜひホンダには新型を試乗できる機会を設けてほしい。せっかくの紛うことなきタイプRなのに、このままでは「乗らず嫌い」を増やしてしまいそうだ。


FK2から20ps増の330psになることが発表された次期型タイプR。夏頃に日本導入予定だが、生産はホンダUKだ

 

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