東京都や神奈川県の都市部を走る路線バスといえば、乗る時に前扉から乗車し、先に運賃を支払うイメージが非常に強い。一方、乗車距離制料金の場合は乗車時に乗車した停留所を証明する「整理券」を、降車時まで持っていなくてはならないというシステムがある。現在はICカードでのタッチも一般的だが、さて……。
文・写真:中山修一
(整理券の写真付き記事はバスマガジンWebもしくはベストカーWebをご覧ください)
■都会だけ? のバスの常識
そういったエリアの路線バスは、前から乗って後ろから降りる、運賃前払い方式が主流……これはどこから乗って・どこで降りても運賃が変わらない、均一運賃制を採っている路線の数が極めて多いところから来ている。
中には途中で十円単位で運賃が変わる都会の路線もなくはないが、こちらは乗車時に行き先を申告して金額を調整するスタイルで、前乗り・後ろ降りの運賃前払い制自体は変わらない。
あまりにも前払い制が目立つせいか、この運賃収受システムに慣れきってしまうと、都会がそうなら日本全国どこもバスの乗り方は同じだろう、と思いたくなる。
ところが、運賃前払い方式を全国的な基準で見ると、むしろ都会でしか見られない少数派なのが現実で、東京を離れ遠方に赴いて前ドアからバスに乗ろうとしようものなら、「あっそっち出口です」と言われてしまうこと請け合いだ。
■怒涛の採用率
前払い方式よりも遥かに浸透度の高い運賃収受システムが、2ドア車なら後ろのドアから乗って前ドアから降りる、運賃後払い方式だ。
大都会を除けば、バスが1回に走る距離の関係で、利用する区間によって運賃が変動する路線のほうが実はポピュラー。そうなると、後ろ乗り・前降りが合理的というわけだ。
運賃が変わるバス路線では、正しい金額を支払ってもらうために、利用者の一人一人が、どこから乗ったかをハッキリ提示する必要が出てくる。その際に証拠代わりとなるアイテムが「整理券」だ。
整理券は長方形をしていて、電車の切符の要領で文字が印刷されている。ただし金券としての効力は持っておらず、あくまで乗ったエリアを数字で記してあるだけだ。
降りる際に整理券に印字されている数字と、車内の運賃表示器の番号を照らし合わせて、同じ番号の下に表示されている金額を支払うのが、今日見られる運賃後払い方式の基本的な流れになっている。
整理券を利用した運賃後払い方式の採用率に注目すると、都道府県レベルであれば何と47/47都道府県とパーフェクト!! 怒涛の100%である。
前払い制が圧倒する東京都と神奈川県にも、ちょっと奥の方へ行けば整理券・後払い方式のバスがシッカリ走っている。大都会メジャーの頂点に立つ、あの都営バスにだって、ちゃんとあるのだ。
■きっかけはワンマンバス
整理券方式はバス会社を問わず全国ほぼ同じ要領であるため、覚えておくと旅先などで困らなくなって便利だ。
しかし全国的な浸透度が高いのもあり、いつ頃できた運賃収受システムなの? というところも少々気になる。
戦前とか、そこまで大昔から存在していた仕組みではなさそう……何も調べない段階でそんな仮説が思い浮かぶ。
と、いうのも、昔のバスには車掌さんが乗っていて切符を手売りしていたため、わざわざ整理券を用意する必要がなかったと考えられるからだ。
裏を取るべく国会図書館が所蔵している文献を漁ってみると概ね仮説通りのようで、1967年発行の文献を皮切りに整理券方式の記述が目立ち始める。
ちょうどこの時代、全国的にバス会社の合理化が進められており、コスト削減に加え、なり手不足が深刻化していた車掌さんの乗務を廃止して、ツーマンからワンマン運転へと切り替える動きが加速していた。
ワンマン運転となると、従来通り切符を手売りするには時間がかかりすぎてしまう……そこで考え出されたのが運賃後払いの整理券方式だった。
整理券方式は合理化から来るワンマンバスの副産物、と言えそう。ただし、切符を売る代わりに整理券を手渡しするところまで車掌さんが担っていたツーマン運転のバスも、ツーマンからワンマンへの転換期に一部あったらしい。