「常識外のクルマがあってもいいのでは?」そんな発想から生まれたのが、ミッドシップスポーツカーのMR2だ。今から40年以上前の1984年に登場したこのクルマには、クルマ好きの夢とロマンがこれでもかと詰め込まれていた。よくぞ作り、よくぞ売ったと感心せずにはいられない。昭和末期から平成バブル期というイケイケな時代をそのままカタチにしたような1台、MR2を振り返っていこう。
文:佐々木 亘/画像:トヨタ
【画像ギャラリー】リトラ開く瞬間が最高すぎる!! ミッドシップとTバールーフ採用のMR2を一挙に(17枚)画像ギャラリーミッドシップが生み出す魅力にメロメロ
MR2最大の特徴といえば、当時の国産車では初となるミッドシップレイアウトだ。現代のクルマはほぼすべてエンジンを前方に搭載しているが、MR2はシートの後ろ、後輪の軸より前にエンジンを置く。この配置により、前後の重量配分と重心位置が一般的なクルマとは大きく異なり、まるでヒップポイントを支点にするようなクイックで鋭いコーナリングが楽しめるのだ。
さらにミッドシップレイアウトには、プロペラシャフトを介さずエンジンの出力をダイレクトに路面へ伝えられるという利点もある。MR2はここにスーパーチャージャーを組み合わせ、全回転域をトルクバンドに変えてしまうほどの加速性能を手に入れた。
ハードにチューニングされたサスペンションとの相乗効果で、MR2のハンドリングはまさに異次元。プロドライバーがスポーツ走行でスピンしてしまうほどシビアだったというエピソードが、その凄みを物語っている。当時のスポーツカーマニアが海外の名だたるメーカーに求めていたものを、MR2はたった1台の中に濃縮してみせた。
スポーツカーに求める装備をすべて盛り込んだ
速さだけがスポーツカーの魅力ではない。日常の道でもカッコよく、颯爽と走る姿を見せたい。そんなオーナーの欲望にも、MR2はしっかりと応えてみせた。
その象徴的な装備がTバールーフだ。ロックノブとハンドル操作だけで着脱できる手軽さで、取り外せばオープンカー状態に。頭上から降り注ぐ太陽の光を浴びながら、風の香りを全身で感じるクルージングが楽しめる。スポーツカーとしての速さと、オープンエアの開放感を1台で両立できるのは、当時としても贅沢の極みだった。
ボディデザインにも妥協はない。ミッドシップの証でもあるクールエアインテークやリアスポイラーが精悍な雰囲気を醸し出し、そこに「男のロマン」とも称されるリトラクタブルヘッドライトまで奢られている。ライトが電動でせり上がるあの動作は、何度見ても飽きない独特の色気があった。
どこを切り取っても、どこに触れてもカッコいい。ホットな走りはもちろん、ゆったりとしたクルージングでも絵になる。MR2はそんな万能な魅力を持つ1台だ。
【画像ギャラリー】リトラ開く瞬間が最高すぎる!! ミッドシップとTバールーフ採用のMR2を一挙に(17枚)画像ギャラリー世の中より、作りたいものを作ったクルマ
MR2はミッドシップレイアウトゆえ、リアシートという概念が存在しない。乗車定員はきっぱり2名。この割り切りこそが、このクルマの本質を語っている。
現代でスポーツカーを開発しようとすると、どうしても「守りの4人乗り」になりがちだ。応急用でも何でも4人乗れた方が、メーカーにとっても購入者にとっても都合がいいからだろう。クルマは売れてナンボの商品である以上、世の中のニーズに向き合うことは避けられない。
それでも、ときにはブレークスルーとして、開発陣が「作りたいもの」を自由に作り上げてもいいのではないか。MR2にはまさにそうした潔さが宿っている。多数派にはなれない、大ヒットも望めない。それでも信じた方向性を貫いた作り手の気概が、このクルマのすみずみから伝わってくるのだ。
SUVやミニバンを金太郎あめのように量産し続けることが悪いわけではない。ただ、もう少しだけ「技術のこだわり」や「作り手の信念」を感じられるクルマが今の市場にあれば、自動車業界ももう少し違う活気を持っていたのではと、つい思ってしまう。
MR2が新車として身近にあった時代。あの頃の日本のクルマには、作り手の汗と涙の匂いがした。整いすぎてしまった現代だからこそ、あの時代への憧れは色褪せない。
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