いよいよ決勝が間近に迫ってきた鈴鹿8時間耐久ロードレース。3連覇を狙うTeam HRC、テストでトップタイムをマークしたDUCATI Team KAGAYAMA、3人とも安定した速さを見せるYARTなどがトップ争いを繰り広げそうだが、カーボンニュートラルなチャレンジで注目を集めているのは#0 Team SUZUKI CN CHALLENGEだ。
完走するだけでなく、速さにもこだわるGSX-R1000R
3月のモーターサイクルショーでプロジェクトリーダーである佐原伸一氏によって明らかにされ、カーボンニュートラル素材を使った外装を身にまとったSUZUKI GSX-R1000R、燃料は40%がバイオ由来のエルフMoto R40 FIM、オイルもMOTULのバイオ由来ベースのもの、タイヤもブリヂストンが再生資源・再生可能資源比率を向上したものと、まさに走る実験室ともいえるマシンで参戦する。実験的クラスとして設定されるエクスペリメンタル(EXP)クラスとなり、賞典外となるが、ベースマシンは実績のあるヨシムラSERTのGSX-R1000Rだけに、2回のテストを終えたところシングルフィニッシュは見えて来ているようだ。
「もちろん完走は第一目標でありますし、データをしっかり取るためにも最低条件だと思っています。ただ、完走するための参戦では意味がない。極限の状態で走るからこそ開発、実験になりますし、だからこそ速さにはこだわりたいですね」(佐原氏)
2022年にMotoGPを撤退し、2輪のレースグループを解散したスズキ。このプロジェクトのために、MotoGPを経験したスタッフを集め、新たに初めてレースを経験する社員も加わった。スズキのレースの火を灯し続けるために人材育成も目的の一つとなっているからだ。耐久レースは、特にライダーケアやピット作業など、チームスタッフとしてやるべきことが多い。レース中は、コースで1秒削るのも、ピット作業で1秒削るのも同じ。レース本番までタイヤ交換などのピット作業の練習に明け暮れているそうだ。
まずは6月上旬の鈴鹿テストまでに、竜洋のテストコースなどで準備作業を行ったが、マシン面はもちろん、新チームならではの苦労もあったと言う。初めてレースに関わるスタッフを指導しながら、マシンを走らせる術を伝えなければならないからだ。
6月4、5日に行われた鈴鹿テストでは、まずは、ヨシムラSERTのライダーである渥美心がマシンの確認作業を行った。渥美の最初のコメントは「普通に走れます」だった。
「心に“普通に走れます”と言ってもらったのは、本当にホッとしました。まずは普通のレベルに持って行けたことは、すごくポジティブだったからです。その後、すぐに2分08秒台に入り、2分07秒台までタイムを縮めてくれました。渾身のアタックではない状態でしたし、2回目のテストでは、マッソンも濱原も2分07秒台が出たので、正しい方向に進んでいることを証明できていますし、何よりもテストには付きものとも言える転倒がなかったのでメニューをこなすことができました」(佐原氏)
テストでは濱原がベストタイムをマーク。マッソン、生形の3名が揃う
6月19、20日に行われた2回目のテストでエティエンヌ・マッソン、濱原颯道、生形秀之の3名のライダーが勢ぞろいした。ここでベストタイムをマークしたのは、濱原だったが、マッソンもほぼ同タイムを記録。生形は、まだフィジカル面で問題があったが、本番までに間に合わせる予定だ。
濱原は、全日本JSB1000クラスで2021年はランキング3位、2022年はランキング2位になる実力の持ち主だが、昨年は契約がうまくいかずレースから離れていた。今回は、1年半ほどブランクがあったが、すぐにタイムを出して見せたのは、さすがだった。
「2017年にヨシムラで全日本JSB1000を、SERTで鈴鹿8耐に出させてもらったのですが、そのころよりも遥かにGSX-R1000Rは乗りやすくなっていますね。もちろんサスティナブルな素材を使っているパーツやタイヤを使っていますが、ベースが良いということです。チームもすばらしく、レースに集中できる環境を整えていただいています。トップ3は速いですが、6位以内でゴールしたいですね」(濱原)
マッソンはヨーロッパではヨシムラSERTの正ライダーであり、今年も開幕戦ル・マン24時間耐久で優勝の一翼を担っている。ブランクはあった濱原、ケガからの復帰戦になる生形と、それぞれの置かれている状況が違うと同時に求められることも、それぞれ違う。
「マッソンは、ベースとなっているGSX-R1000Rに乗っていますし、新しいアイテムに対しての評価を的確に判断してくれています。速さも持っているので頼りになりますね。濱原も鈴鹿では、特にスピードを持っていますし、どんなマシンも器用に乗ることができるので3人で走る耐久には向いています。生形くんは、マシンを開発していく上でいいセンサーを持っています。乗る度にタイムも上がってきているのでレースウイークには2人と遜色ない走りができるでしょう。また、自らのチームで鈴鹿8耐に参戦していたので、チーム全体をうまく機能させるために何が必要なのかを知っているので、その辺のアドバイスも期待しています。そんな生形くんに“ファクトリーチームは動きが違いますね”と言ってもらえたので自信にもなっています」(佐原氏)
生形は、ここ数年は自らのチーム、エスパルスドリームレーシングとして鈴鹿8耐に参戦し、4位に2度入賞している。だが、昨年は2度の転倒で大ケガを負い、今年も参戦権は持っていたが、チームとして参戦するには、様々な条件がそろわずにいた。そんなときにTeam SUZUKI CN CHALLENGEで参戦する話しが舞い込んでくる。
「エスパルスドリームレーシングとしてやりたい気持ちもありましたし、やって欲しいという方もいましたが現実的ではなかった。そんなときにTeam SUZUKI CN CHALLENGEで走るチャンスをいただくことができたのは感謝しています。個人的には、Team SUZUKIがレースに戻って来てくれたことが、すごくうれしいですし、そのプロジェクトにライダーとして加われたことは光栄ですね。レース界全体にとっても、カーボンニュートラルは無視できないご時世ですし、このプロジェクトを通して、多くの企業が感心を持っていて抱ければ一つの正解になると思います。レースは“走る実験室”と言われていますし、このプロジェクトを成功させて、来年、再来年と続けていければいいですね」(生形)
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