かつては日本の国民車とまで言われたカローラ。国内販売では、2002年にホンダ フィットに抜かれるまで、33年連続で年間最多を誇った。
そんなかつての国民車も、1966年のデビュー以来、約53年にわたって守り続けていた全幅1.7m以下の5ナンバー枠をついに超え、ついに3ナンバー化。その変化を嘆く声もあるが、これも時代の潮流か…。
そんな大きくなったカローラだが、なぜか後席空間は狭くなったと評する声が多く聞かれる。実際に試乗したベストカー編集部員も、後席空間へのエントリーのしにくさを挙げていた。
大きくなったのに狭くなる。なぜこんなことが起きてしまったのだろうか? その本当のところを試乗会で開発者に迫った!
文/鈴木直也
写真/編集部
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■ゴルフと堂々と戦えるレベルの仕上がり具合
第一弾カローラ・スポーツがデビューした段階から評価が高かった新型カローラだが、セダンとワゴン(ツーリング)が登場したことでバリエーションも充実してきた。
セダンが売れないと言われて久しい日本市場だが、とりわけカローラが属するCセグセダンの退潮が最も顕著。そこになんとか歯止めをかけるのが、今度のカローラ・セダン(&ツーリング)に託されたミッションだ。
注目のポイントその1は、欧州市場向けGA-Cプラットフォームを投入したことだ。
従来モデルのカローラ・アクシオ(&フィールダー)は、ヴィッツのBプラットフォームの拡大版で、「スモールセダンは低価格を訴求しないと売れない」というコスト志向コンセプトだった。
これに対し、新型はグローバルCセグのど真んなか狙い。コスパのよさは捨てないが、堂々「ライバルはゴルフ」と言える高い目標を設定している。
注目のポイントその2は、その高品質GA-Cプラットフォームを使いながら、きちんと日本市場向けに車体寸法をアレンジしてきたこと。
欧州で先に発表されたワゴン(カローラ・ツーリングスポーツ)は、ホイールベース2700mm、全長×全幅×全高それぞれ4650×1790×1445mmだが、日本市場向けはひと回り小さくサイズダウンさせた。
ホイールベースを60mm短かくして(カローラ・スポーツと同じ)全長×全幅も4495×1745mmと日本で使いやすいサイズに抑えている。
一般メディアでは「カローラがついに3ナンバー化!」と騒いでいるが、衝突安全性能を考慮すると、もはや全幅1700mm以下というのは非現実的。しかしながら、その制約のなかで日本の道路で使いやすいクルマに仕上げるため、ぎりぎりまで粘った執念が感じられる。
北米仕様やアジア仕様をそのまんま日本に持ってきて「売れない!」と嘆いているメーカーは、爪の垢を煎じて飲んでほしいと思う。
■車体は広くなったのに、狭くなった後席のナゾ
ただし、この寸法切り詰めはいいことばかりではなく、主に後席居住性にマイナスの影響が生じている。
ホイールベースで60mmの短縮は、室内パッケージに大きな影響を与える。
セダン/ワゴンともにサイドシルが高く、開口部が狭く足先をひっかけやすいことに加え、筆者は身長175cmだが、前席でポジションをとると、後席乗員のニースペースにはほとんど余裕がなくなる。
これは、Cセグとしては足元空間がかなり狭い部類。車体が大きくなったのだから後席も広くなっただろうと期待して、アクシオ/フィールダーから乗り換えると、ガッカリするかもしれない。
このへんは外寸と内寸のどちらを優先するかというコンセプトの問題だが、試乗会で開発者に聞いたところ、
「前後席ピッチはアクシオ/フィールダーに比べて30mm縮まっています。しかし、日本市場では、本当にスペースを必要とするユーザーは、まずミニバンやSUVに目を向けるので、広さだけでは勝負にならないのです。カローラはデザインのカッコよさと、日本市場で使いやすいサイズのほうを優先しました」
とのこと。
つまり、八方美人ではセダンの右肩下がりトレンドに歯止めをかけられない。まずはカッコよくて使いやすいクルマでユーザーに注目されることを狙ったというわけだ。
ただし、リアシートに収まると、タイトながら居心地は悪くない。セダンもワゴンもスタイリッシュなルーフラインを優先したため、リアドア開口部の頭上に余裕はないが、頭をかがめて低めの着座位置に腰を下ろしてしまえば、最初の印象よりは頭上に余裕があると感じる。
後席の開放感という意味では、ルーフが水平に伸びていて後部カーゴルームに空間的な余裕を感じるワゴンのほうがベターだが、セダンの“包まれ感”を好む人もいるから、このあたりはお好みでどうぞというところだ。
後席のシートアレンジについては、座面とフロアの感覚が少なめで、若干膝の曲がりが大きくなる傾向がある。この姿勢だと長時間ドライブがちょっと辛くなりそうだが、このデザインに人間を収めるにはやむを得ないところ。
開発者によると「後席の床と座面の間隔は40mm小さくなってます」だそうで、言ってみればクーペ的な発想のパッケージングなのかもしれない。
こういうサイズの設定やパッケージングのコンセプトだけをみても、今度のカローラ・セダン、カローラ・ツーリングは、先代とは打って変わって「攻めの姿勢」で作られたクルマという実感がある。
ここまでやってダメなら、もう日本ではスモールセダンはオワコン。トヨタにしてみれば、そのくらいの危機感を持って開発したクルマといえるでしょう。
ユーザーとしては後席空間は広いほうが嬉しいと思うが、「スタイル重視」という開発者の狙いどおりに、ユーザーが受け止めるのだろうか…。
トータルでよくできていると評価が高い新型カローラだが、頻繁に後席を使用する人は、ぜひ後席の乗り降りのしやすさや、頭上空間などもチェックしてもらいたい。
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