トヨタの車種ラインナップのなかで最も大きいミニバンであるグランエース。3列目の快適さにおいては他車の追随を許さないこのグランエースだが、2024年10月、トヨタが2024年4月をもってグランエースの生産を終了したことを発表。それはあまりに突然のさよならだった……
※本稿は2024年11月のものです
文:渡辺陽一郎/写真:トヨタ、ベストカー編集部
初出:『ベストカー』2024年12月10日号
■6人が快適に移動することができた「真のミニバン」
Lサイズミニバンのトヨタ グランエースが、2024年4月に生産を終えた。発売は2019年10月で、改良をほとんど受けずに終了。
ボディの基本部分は、海外で売られる商用車のハイエースと同じだから後輪駆動車だ。全長は5300mm、全幅は1970mmと大きく、マイクロバス的なミニバンだから一般ユーザーには適さない。かといって、旅館などの送迎に使うには、車内が狭く中途半端だ。
しかも価格は、6人乗りになる上級のプレミアムが672万1000円に達する。送迎車として人気のハイエースグランドキャビンは374万200円だから大幅に上まわる。これらが災いして売れゆきは低迷した。発表時点の販売目標は1カ月平均50台だったが、2021年以降はそれ以下になった。
しかしグランエースには、ほかのミニバンでは得られない優れた価値があった。3列目シートを含めて、すべての乗員が快適に移動できることだ。プレミアムでは、2/3列目の両方に、豪華で座り心地が快適なエグゼクティブパワーシートを装着する。
アルファードを含めて、一般的なミニバンの3列目は、格納性を重視して2列目に比べると座り心地が悪い。荷室に装着された補助席に近く、多人数で長距離を移動するなら休憩時に「席替え」をする必要があるが、グランエースなら不満はない。
3列目を格納して荷室にできない代わりに、座り心地や快適性は2列目と同等で、6名全員が快適に移動できる。購入後に3列目に座った乗員から文句を言われ、ミニバンの真実に初めて気付く不幸も生じない。
しかもエンジンは、ミニバンではデリカD:5と並んで貴重なクリーンディーゼルターボ。高速道路の巡航も得意だから、長距離を運転しても疲れにくい。
グランエースは、アルファードのように見栄を張ったり威張ることは考えず、6名の快適な移動だけを真面目に追求する本当のミニバンであった。トヨタの良心を感じる逸品、終了は残念だ。
【画像ギャラリー】さよならも言わずに行ってしまうのかい……? 2024年4月に生産終了したトヨタ グランエース(24枚)画像ギャラリー■渡辺陽一郎氏が考える「グランエースに欲しかった生き残り策」
価格が600万円を超えるミニバンとしては、外観が地味過ぎた。もう少し高級感を強めて、内装も上質な仕様を用意すべきだった。
また、後席が装着されないキャンピングカーなどのベース車両を提供する方法もあった。特にコロナ禍では、キャンピングカーなどを使って、人の少ない場所へ出かけるニーズが高まっていた。
グランエースは法人の利用価値も高い。仕事で5~6人のグループが長距離を移動する場合、新幹線では運賃が高騰するが、グランエースなら高速道路料金は1台分で済む。ディーゼルだから燃料代も安い。
6名全員が快適に乗車できるグランエースには、ほかのミニバンとは違う利用価値があり、そこを訴求すべきだった。
●トヨタ グランエース 諸元表
・グレード:Premium
・全長×全幅×全高:5300×1970×1990mm
・ホイールベース:3210mm
・車両重量:2740kg
・エンジン:直4ディーゼルターボ
・総排気量:2754cc
・最高出力:177ps/3400rpm
・最大トルク:45.9kgm/1600~2400rpm
・トランスミッション:6速AT
・WLTCモード燃費:10.0km/L
・価格:672万1000円
●トヨタ グランエース登場からの歴史
・2019年10月8日:東京モーターショー2019のトヨタ車体ブースで初披露
・2019年11月25日:正式発表
・2019年12月16日:発売
・2021年6月28日:一部改良
・2023年10月:一部改良
・2024年4月:生産終了
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