トヨタの「ゆとり」とホンダの覚悟…… 日本勢が存在感を示したCES2025でアナリストが見たもの

トヨタの「ゆとり」とホンダの覚悟…… 日本勢が存在感を示したCES2025でアナリストが見たもの

 ナカニシ自動車産業リサーチ・中西孝樹氏による本誌『ベストカー』の月イチ連載「自動車業界一流分析」。クルマにまつわる経済事象をわかりやすく解説すると好評だ。第39回となる今回は、1月7日から10日にかけて開催されたテクノロジーの見本市「CES2025」について。自動車関連の展示が急増するなか、筆者が目の当たりにしたものとは?

※本稿は2025年1月のものです
文:中西孝樹(ナカニシ自動車産業リサーチ)/写真:トヨタ、ホンダ、ソニー・ホンダモビリティ ほか
初出:『ベストカー』2025年2月26日号

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■日本勢が存在感を発揮していた今年のCES

CESにて、NVIDIAジェンスン・フアンCEOの基調講演に長時間並ぶ聴衆(筆者撮影)
CESにて、NVIDIAジェンスン・フアンCEOの基調講演に長時間並ぶ聴衆(筆者撮影)

 米国のテクノロジー見本市「CES2025」がラスベガスで開催されました。

 例年どおりCESの視察に出かけ、6年ぶりに1月開催に変更されたデトロイトの北米国際自動車ショーも覗いてみました。 「明と暗」、「動と静」という対照的な技術、製品、企業の世代交代を目の当たりにすることになりました。

 CESはモビリティテック(自動車関連)の展示が急増し、モーターショーとしての役割が加わっています。日本勢が強力なプレゼンスを発揮していたのが今年の特徴です。

 トヨタが5年ぶりにプレス発表へ復帰し、豊田章男会長が実証実験の街「ウーブン・シティ」第一期の完成報告に登壇、ホンダは2026年から始まる0(ゼロ)シリーズの2つのプロトタイプを発表、ソニー・ホンダモビリティは「アフィーラ1」の完成直前のモデルと販売価格を発表、カリフォルニア州限定ですが先行受注を開始しました。

 中国メーカーも昨年同様、一定の存在感を示しました。ただし、米国における生産・販売には政治的に大きなハードルがありますので、パリモーターショーやバンコクのモーターエキスポのような圧倒的な存在感はここにはありません。

 ある意味、現在のモビリティテクノロジーの進化を強力にけん引しているテスラやBYD、小鵬汽車(Xpeng)、華為(ファーウェイ)が不在であるということは、CESを覗いたからといって世界先端のソフトウェアやEVの技術をフォローアップできたとは言えないでしょう。

 やはり、中国サプライヤーが大挙して技術発表を行う4月の上海モーターショーを見なければダメだと痛感しましたが、一方で、自動車のコアテクノロジーを独占する米国テックジャイアントの存在は圧巻でした。

ソニー・ホンダモビリティブース
ソニー・ホンダモビリティブース

 クルマがソフトウェア化するソフトウェア・デファインド・ビークル(SDV)という言葉は特段バズっているわけではありません。

 SDVはすでに当たり前のメガトレンドであり、クルマは着実に、汎用化されたスマートフォンのようなオープンアーキテクチャへ進化を続けているのです。自動車産業の競争力の源泉はデータの収集力と計算力に移行していると考えて過言ではないでしょう。

 最先端の基盤を構築済みのテスラと、凄まじいスピードで進化する中国自動車メーカーがこのトレンドをけん引しています。

 ドイツ車も日本車もこの変革に出遅れ、周回遅れである事実から目を背けることはできないでしょう。

■ホンダは日産との経営統合で、一世一代の勝負をかけようとしている

CES 2025 プレスカンファレンスに臨んだトヨタ 豊田章男会長
CES 2025 プレスカンファレンスに臨んだトヨタ 豊田章男会長

 トヨタは5年ぶりにCESに帰ってきました。静岡県裾野市のトヨタ工場跡地を活用し、モビリティソリューションを実証実験する「ウーブン・シティ」を建設すると発表したのが2020年でした。今年登壇した豊田章男会長は、高らかにフェーズ1の完成を発表したのです。

 ウーブン・シティがトヨタに収益をもたらすのかという問いに対し、豊田会長は「おそらく、そうはならないかもしれません。しかし、それで構いません」と意外なほどに冷静な姿勢を示したことは驚きでした。

 トヨタは2024年度に次世代の電動化とソフトウェアへの設備投資・研究開発に1.7兆円も投資しています。そのなかで推定5000億円程度はソフトウェア・デファインド・ビークル(SDV)の準備に向けたソフトウェア開発投資が占めると筆者は推定しています。

 巨額な投資を実施しながらも、その収益化に必ずしも慌てていないというトヨタの一種の「ゆとり」には驚かされます。

 多大な先行投資を実施しながらも安定した収益性を確保できるという自信を示せるのは、現在の世界の自動車メーカーでトヨタだけではないでしょうか。

 VWは大リストラを実施中、GMはロボタクシー事業の撤退を決定、そしてホンダと日産は経営統合に踏み込み、必死にもがいているのです。

 この差を生み出しているのがEV・SDV専用投資に向かった欧米勢とマルチパスウェイ戦略で汎用投資を多用したトヨタとの差であると言えます。

 戦略の違いは、現時点で汎用戦略に軍配が上がっているのです。EVシフトが遅れることは鮮明であるなか、専用投資に向かった欧米勢は内燃機関への再投資を行わなくてはならず、経営効率が大きく悪化しています。

 そこに、新エネルギー車(NEV)シフトが進行し続け、特出した競争力を獲得した中国メーカーが襲います。中国国内のグローバルブランドを駆逐し、世界市場に打って出ています。

 その構造のなかでいち早く新しいモビリティの価値を確立し、古い構造からの転換を進めようとしているのがホンダです。

 立ち止まれば、伝統的な価値ではトヨタにシェアを奪われ、新しいモビリティ価値はテスラと中国勢に敗北することを意味します。ホンダの決断はテスラと中国勢が提供する価値に近づき、ホンダ独自のまったく新しいSDV価値を作り上げるということです。

 それを具現化するのが0(ゼロ)シリーズというわけです。

ホンダの0シリーズの進化(第3世代から第4世代)※出所:会社資料を基に筆者作成
ホンダの0シリーズの進化(第3世代から第4世代)※出所:会社資料を基に筆者作成

 アシモOSを自前開発、200TOPSもの最先端SoCをルネサスと共同開発し、全域アイズオフという自動運転レベル3を武器に、新たなユーザー体験をマネタイズしようとしているわけです。

 その実現には日産との連携が不可欠です。ホンダは一世一代の勝負を日産との経営統合にかけようとしているわけです。

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