最近は家族のためにお父さんが欲しいクルマを我慢する(妥協する)ことが増えてきたのだろうか。ディーラーでの商談を見ていても、クルマ選びの蚊帳の外にお父さんがいるということも珍しくはない。お父さんが欲しいクルマを、家族の反対をよそに契約していたのはいつのころまでか。そんなクルマの買い方が出来たのは、FJクルーザーが隆盛を誇っていた頃までかもしれない。
文:佐々木 亘/画像:トヨタ
【画像ギャラリー】リアタイヤの沈み込み凄い!!!! オフロードも本気で楽しめる「FJクルーザー」がコチラ!(17枚)画像ギャラリーFJクルーザーにしか無い独特のカッコよさ
2010年10月に登場し、2018年1月まで販売が続けられていたFJクルーザー。レトロモダンな外観が人気を集めた、本格オフロード4WDだ。
丸目2灯のヘッドランプやフロントグリルのTOYOTAロゴは、FJクルーザーのトレードマーク。垂直に立ち上がったフロントガラスに3本のワイパーや、樹脂パーツの質感を生かしたエクステリアデザイン等、独特のカッコよさを持っていたクルマである。
心臓部にはV6の4Lエンジンを搭載し、駆動方式はハイギアの二輪、ハイギアの四輪、ローギアの四輪のトランスファーを備えるパートタイム4WDだった。ビルシュタイン製ショックアブソーバーやリアデフロックを標準装備するオフロードパッケージは、FJクルーザーのグレードの中でも人気が高い。
FJクルーザーは、独創的なデザインに本格オフローダーの足回り、そして強烈なパワーを持つ心臓部と魅力たっぷりのクルマなのだが、いざ愛車にするとなると、家族の大反対に遭ってしまう、ちょっと困ったクルマだったのである。
超カッコいいけど何かと問題の多かったFJクルーザー
まずもって一番の問題点は、リアドアが単独で開かないということ。一見すると2ドアに見える美しいエクステリアデザインは、内蔵式ピラーを備えた観音開きドアを採用したために出来たものである。これが、一般的な5ドア車とは大きく異なり、使い勝手の悪さを備えてしまっているのだ。
リアドアを観音開きにするためには、必ずフロントドアを開けなければならない。さらに、前席用のシートベルトがリアドアの内蔵ピラーに取り付けられているため、観音開きドアを開けるためには、フロントシートの乗員がシートベルトを外さなければならないというおまけつき。
観音開きドアを面白がる子供たちは多く、子供たちはお父さんの味方になることが多いものの、試乗中にドアが開かない件とシートベルトの件が奥様に知られてしまうと、そこからFJクルーザーの欲しいお父さんの分は大きく悪くなってしまう。
さらにタイヤは大きくて高価だし、エアコンはマニュアルだし、大排気量で税金は高いしというコスパの悪さもついてくる。これで314万~332万円という車両本体価格というのが、奥様の首を簡単には縦に振らせない。
そして時代はエコカー補助金の最盛期だから、エコカーのエの字もなく、もちろん補助金も出ないFJクルーザーを買いたいお父さんは、本当に苦労した。筆者は当時、商談の席に着く営業マンだったが、けちょんけちょんに言われるお父さんの姿を、それはもう数多く見たものだ。
しかしそれでもFJクルーザーが欲しいお父さんは、信念を曲げずにプレゼンテーションを繰り返す。営業マン側もお父さんの援護にまわりながら、何とか商談を成立させようと必死だった。
最近は当時のFJクルーザーのように、「どうしても欲しい!」と世のお父さんに言わせるクルマが、本当に少なくなったと思う。家族を何とか説得して、苦労してでも乗りたいクルマを買うという苦労は、本当に素敵なものだ。
欲しいクルマを、家族を説得して買う。そんな時代は再びやってくるのだろうか。クルマの魅力が再び高まり、世のお父さんが本気で欲しがるクルマがまた登場することを、筆者は一人のクルマ好きとして切に願っている。




















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