神奈川県内で発生した東名高速道路で夫婦が死亡した事故で、その危険性が改めてクローズアップされることとなった「あおり運転」。
一般的に「前方のクルマとの車間距離を極端に詰める」、「クラクションを鳴らして威嚇する」、「前方に回ってブレーキを踏む」といった行為のことを指しますが、そのような行為を行うドライバーの心理はいったいどうなっているのでしょうか。
今回は日本交通心理学会で事務局長を務め、交通心理学や交通事故防止の研究を行っている九州大学大学院、志堂寺和則教授に話を伺いました。
実は「あおり運転」は捕まえにくい、調査がしにくいということで、研究もまだあまり進んでいないのが現状のため、交通心理学による一般的な見解を語ってもらいました。
文:志堂寺和則(まとめ/ベストカー編集部)
写真:shutterstock.com
初出:ベストカー2017年12月10日号「なぜ人は“あおる”のか? あおり運転の心理学」より
■交通心理学が解き明かす「あおり運転」の深層
よくあるのは、急に前に割り込まれたり、脇道から不意にクルマが出てきた、ノロノロ走っているクルマがいてなかなか抜けないといった、「きっかけ」があるものなんです。
そこでムカッとする、ヒヤッとする、イライラするといった感情が起きると、大半の人は「あ~、ビックリした」とか「マナー悪いな」とか「先に行かせてくれないかなあ」と思う程度で終わりますが、なかにはそうではなくて頭に血が上ってしまう人もいます。
そうすると、「カッ」となって仕返ししよう、こらしめてやろうというような行動に出てしまうんです。
ではなぜ、そういった行動に出てしまうか? というと、ひとつは「匿名性」です。クルマは似たようなものがたくさん走っているので、チラッと見たくらいでは憶えにくく、特定されにくい。
歩いている時などにトラブルを起こすと顔を覚えられてしまうことがあるので、あとで報復を受ける、または警察に連絡されるということを考えやすいんです。しかし、クルマの中に乗っていると、バレないだろうと思いやすくなります。
■カギは「匿名性」と「安心感」
もうひとつは、クルマに乗っているという安心感があります。鉄の鎧と例えられるクルマの中にいると、事故を起こせばケガをする可能性があるのに、自分は安全だと思いやすい。
ちょっと車間を詰めたり、ちょっとパッシングしたくらいでは事故にはならないと思って、人に圧力をかけるのです。
さらには、人がどう感じているのかわからないということもあります。
人と人のけんかであれば、どれだけ相手がダメージを受けているのかが目に見えるので、手加減や度を超さないうちに終わりにしておいたほうがいいというのがわかります。
しかし、クルマであおっている状態では、相手が前を走っておりドライバーの表情を窺い知ることができないので、どれだけプレッシャーを与えられているのかがわからない。それでやり過ぎるという状態が生まれます。
また、あおってヤバそうな状況になったら、そのままクルマで逃げてしまえばいいという心理も働きます。そのため、大胆な行動を気やすく起こしてしまいます。
そして、大胆な行動でも、大胆な行動に感じられなくなります。そういうヤリ逃げができる状況では、普段はケンカをするようなタイプではない人でも、「カッ」となった時にやってしまうケースも起きてきます。
こういった心理で「あおる」という行為をしていますが、殴るなどの通常の意味での、暴力を振るっているわけではありません。やっている本人には、罪悪感というものがないんです。
気がすんだらあおるのをやめますが、あおったことなどすぐに忘れてしまいます。しかし、やられた側は、もの凄いプレッシャーを受け、精神的に追い詰められるので、その違いは大きいですね。
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