本稿は、全3回にわたってお送りする「紀州のドン・ファンとクルマと美女に関する秘話」の最終回である。
あらためて概要を記すと、和歌山県田辺市の資産家・野崎幸助氏が2018年5月に自宅寝室で死亡した(享年77歳)。解剖の結果、急性覚せい剤中毒と判明し、和歌山県警は野崎氏の元妻である須藤早貴(25歳)を逮捕・起訴している(2021年5月19日)。
亡くなった野崎氏は艶福家で、「紀州のドン・ファン」という異名を持つ。野崎氏は講談社から2冊の本を刊行しており、本稿はその2冊のゴーストライターを務め、3冊目『紀州のドン・ファン殺害 「真犯人」の正体 ゴーストライターが見た全真相』を執筆した記者のレポートである。
(当記事アイキャッチ写真は野崎氏の通夜・出棺の際に早貴容疑者が挨拶するシーン)
文・写真/吉田隆
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■「早貴さんは天才やろ」
2018年4月になって、和歌山県田辺市内で暮らし始めた早貴被告は、すぐに市内にある自動車教習所へ通い始めた。もちろんその費用はドン・ファンが支払った。一日中暇だった早貴被告は20日少しで免許を取った。
「一回も試験に落ちないで免許を取ったんやで。早貴さんは天才やろ」
横で早貴被告は自慢げに笑っていた。ドン・ファンは、早貴被告のことを「ちゃん」ではなく「さん」付けして呼んでいた。機嫌の悪い時は「あの女」であった。
「そりゃあ早貴ちゃん、すごいですね~」
私は大袈裟に驚いてやった。むろんお世辞である。
免許をとったその日に、ドン・ファンは早貴被告が運転する車に乗って、白浜町のリゾートホテルに食事に行ったという。乗った車は前出のトヨタ・アリオンである。
「ベンツで行きたい」
ドン・ファンは結婚数か月前にそれまでの愛車だったベンツから乗り換えて、またベンツの新車を購入していたが、早貴被告は臆面もなくそう言い放ったらしい。いくら天才ドライバーだとしても、免許を取ったその日にベンツの新車のハンドルを握らせる勇気はドン・ファンにもなかった。
しかし、臆面もなく言う早貴被告はやはりどうかしているのではないか。私も自車で都内を移動しているが、傷つけたら怖いのでドン・ファンのベンツを運転したことはない。しかし、野崎氏の会社の番頭さんがハンドルを握るベンツに何度も乗ったことがある。
初心者マークも付けない豪快な性格の早貴被告は(編集部註/道交法違反です)、事件直後に田辺から車で東京に行くという大胆な行動をとる。この時もベンツを希望したが、
「お前には無理や。どうしても陸路で東京に行くならアリオンにしなさい」
ドン・ファンの会社の番頭さんにそう注意されたので、渋々アリオンのハンドルを握った。
「700kmもあるからやめたほうがええよ」
会社の方々が異口同音に、そのように注意をしたという。
「大丈夫です。運転には自信がありますから」
早貴被告はそのように言い放ったのである。なんの裏付けもない自信。これが彼女の性格である。
ドン・ファンの死後にはベンツのハンドルを握る機会も多くなり、高速道路では150km/hものスピードを出すのも珍しくなかった(編集部註/もちろん道交法違反です)。
事故ったら大変だと心配していたものだ。いや、誤解してもらっては困る。彼女が亡くなったら遺産の行方が分散してしまって、取材が困難になるのを危惧しただけだ。
コメント
コメントの使い方非常に興味深く面白かったです。