紀州のドン・ファンと美女とクルマの裏事情【最終回】

■ベンツで東京へ

 野崎氏の死後、早貴被告は自宅がある東京へ、ベンツを持っていこうと画策していた。しかしベンツは野﨑幸助氏の所有物である。民法で、個人資産は相続が決まるまでは凍結されるという決まりがあるために、早貴被告の弁護士さえ「それは違法だから止めたほうがいい」と注意していた。しかし、彼女はその忠告を無視してベンツと共に東京で生活し始めた。彼女には順法精神などまったくないのだから呆れる。

 若葉マークを付ける気も、これっぽっちもない。ベンツに若葉マークはミスマッチだけど。

 何回か早貴被告が運転するベンツを追いかけたことがあるが、高速道路を縫うように前の車を追い抜いていくのは、まるでゲームを見ているようなスリルがあったが、いつ事故ってもおかしくないと冷や冷やした。

 きっと「自分はドライブの天才だ」と思っているのだろう。思慮が足りない女性であるが、事故で死ななくて本当に良かった。

 情報によると、彼女はベンツを売り払ったらしい。これは完全な違法であり、それで再逮捕される可能性もある。品川のタワーマンションで暮らしていた早貴被告はそこで逮捕されたが、そのときに乗っていたのはポルシェだったらしい。まだ報道されていないが、裁判になったら明らかになるだろう。拘置所で早貴被告は「運転したい」と思っているだろうが、その望みは何十年か後になりそうだ。

早貴被告がアリオンで東京に行ったときに捕まった際の青切符。どうやら追い越し車線をずっと走っていたようで、「通行帯違反」に問われた模様。「初心者マークを付けていなかったけど、まけてもらった」と早貴はけらけらと笑っていた
早貴被告がアリオンで東京に行ったときに捕まった際の青切符。どうやら追い越し車線をずっと走っていたようで、「通行帯違反」に問われた模様。「初心者マークを付けていなかったけど、まけてもらった」と早貴はけらけらと笑っていた

■そうはいっても車も好きだった

 ドン・ファンは車に乗ることは好きだったが、もっと好きだったのは女性との交際だった。

「ワシは体の大きな女性が好きなんや」

 身長が170cm以上、そしてナイスバディの女性が好みであった。

「そんじゃあ、バレーボールとかバスケットボールの選手を狙ったほうがいいですよ。180cm以上の選手がゴロゴロしていますから」

 ドン・ファンの身長はぴったり160cmであるから、まるで巨木に止まるセミみたいだと想像すると可笑しかった。早貴被告は167cmであったから、まぁ合格であった。しかもFカップと自称する爆乳の持ち主だった。

「それは人工のおっぱいなん?」

「いいえ、本物で~す」

 彼女は自慢の胸を張ったものだ。

『美女4000人に30億円を貢いだ男』(講談社+α文庫)
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 このように、ドン・ファンの興味は車よりも女性であった。が、そうはいっても車も好きだった。

 亡くなるひと月前の4月後半には、野崎氏は田辺市内の自動車教習所で後期高齢者の教習を受けて免許証を更新している。

 ベンツのことは前述したが、彼はその他に8台の車を所有していた。それは家業である酒類販売業のために使うものだ。地元和歌山県内はおろか、隣県の奈良や三重まで卸していたのだから、町の酒屋さんのレベルを越えている。

 2tのロングのトラックが2台、軽トラックが2台、軽の箱バン。ニッサンのワンボックスは亡くなる半年前に新車で購入した。そのほかにトヨタのオーパとアリオンがあった。それとフォークリフトもあった。

 アリオンとオーパは社長も使っていたが、そのほかの車は従業員専用で、社長であるドン・ファンがハンドルを握ることはなかった。

 女性と車をこよなく愛した野崎氏だった。

 法廷での早貴被告は、どのように「事件の真相」をかたるのだろうか。

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