ホンダといえばF1をはじめモータースポーツでの活躍をはじめ、市販車でもスポーツカーを精力的に生み出してきたメーカーだ。
しかしここ数年、ホンダはミニバンや大ヒットのN-BOXをはじめとした軽自動車開発に傾倒している、なんて批判もある。
S660はまだしも、NSXや実質的に500万円になるシビックタイプRなど、現行スポーツカーへの敷居が高いのも問題だ。そこで今回スポーツカーに詳しいモータージャーナリストの岡本幸一郎氏に依頼し、その歴史と現在をみていこう。
文:岡本幸一郎/写真:池之平昌信、ホンダ
■世界で戦った技術がホンダのスポーツカーに繋がった
ブランドイメージというのは一朝一夕で出来上がるものではない。長い時間をかけて、そのブランドがこれまで何をやってきたか、今なにをやっているかによって形成される。
その点、スポーツカーイメージにおいて異彩を放つのがホンダである。実はホンダはこれまで、それほど多くのスポーツカーを手がけてきたわけではない。
いざ数えてみても、これだけかという気もしなくないほどだ。しかし、世界を凌駕した2輪での名声はもとより、4輪でも非常に印象深いモデルがいくつもあるので、それがホンダのスポーツイメージの確立につながったといえる。
日本の自動車メーカーとしては最後発となるホンダだが、2輪での成功を礎にSシリーズで4輪に参入をはたしたのが1963年のこと。
ほどなくF1に参戦し、日本のモータリゼーション黎明期、「世界のホンダ」と呼ばれるはるか前の、まだホンダが弱小だった時代から世界のトップカテゴリーにおいて2度の優勝を経験する。
実は当時から1980年代にかけてのホンダには、Sシリーズ以外に、いわゆるスポーツカーらしいクルマはない。
ただし、普通のカッコをしていて、実はとてつもなくエンジンが速いというクルマは、軽自動車からセダンまでいくつもあった。
1967年にホンダ初の量産車として発売された軽自動車のN360も、まさしくそうだ。
1980年代にはVTEC旋風を巻き起こし、いずれもFFだったためスポーツカー=後輪駆動という向きには受け入れられなかったものの、高回転まで爽快に吹け上がるエンジンは高く評価された。
性能において競合車に対して圧倒的に優位に立とうとするのは、当時からホンダの社是だ。
今年50歳になった筆者も昔のことはリアルタイムではよく知らないのだが、とにかくホンダはそういうメーカーなんだというイメージはクルマに興味を持った幼少期から刷り込まれている。
とりわけ80年代後半にF1で打ち立てた数々の金字塔や、90年に送り出した初代NSXによるブランドイメージが絶大であることはいうまでもない。
それは他のメーカーにとっては欲しくても手に入れられない、とてつもない価値がある。
その後、90年代半ばからタイプRが一世を風靡し、99年にはひさびさのFRとなるS2000を送り出す。
かなり尖ったスポーツカーであるS2000の9000回転まで回るエンジンと切れ味鋭いハンドリングには衝撃を覚えたものだ。
ここまで性能を追求するなら、なぜオープンカーのみにしたのかと思ったりしたものだが、そんな一筋縄ではいかないところもホンダらしい。
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