澄み渡るサウンド、淀みないパワーとレスポンス……。今や自然吸気(NA)エンジンは“絶滅危惧種”となりつつあるが、ターボエンジンには替え難い魅力がある。
ひと昔前まで「燃費が悪い」というイメージが強かったターボエンジンながら、近年欧州メーカーは小排気量&高効率化を推し進め、スポーツカーも次々とターボエンジンに置き換えられていった。
かたや日本車はハイブリッドが主流でターボ化が進んでいないこともあり、NAエンジン車がまだ生き残っている。
内燃機関のなかでも特に存続の危機に瀕するNAエンジン。その魅力を新車で味わうなら今がラストチャンスかもしれない。
文:鈴木直也
写真:編集部、HONDA、TOYOTA
内燃機関は不滅でもNAスポーツエンジンは存続の危機!?
今後エンジンはどうなるのか? これには、いくつかのシナリオが考えられる。
まず、ハイブリッド化などモーターと組み合わせて使うにせよ、ベースとなる内燃機関の効率アップは必須。
この分野での技術競争はまったく衰えておらず、アトキンソンサイクル化やダウンサイズターボ化など、これまでどおりの省燃費テクノロジーは電動化でさらなる効率アップを目指す。ディーゼルハイブリッドなども、今後は増えてくるかもしれない。
つまり、エンジンだけで走る車は減っても、電動化比率を高めながら燃費効率の優れた内燃機関は今後とも長期にわたって使われ続けることは間違いない。
逆に、燃費至上主義の潮流に逆らって、パフォーマンス志向のエンジンもしぶとく生き残るはずだ。伝統的な走る楽しさでは、モーターより内燃機関を好むユーザーがまだまだ多数派。電動デバイスを追加するにせよ、高性能を追求したエンジンの需要はある。
ただ、このジャンルのパフォーマンス志向エンジンは、燃費規制やエミッション規制など、いろいろな意味で逆風が強くなりそう。そこで必要となるのは、マニアックなユーザーを満足させる高性能と優れた環境性能の両立。ハイパワーを狙えば狙うほど、ターボ、電動化デバイス、そして排ガス処理システムが複雑化。価格的により高価なモノとなるのは避けられない。
そんななかで、最も存続が危ぶまれるのは、NA(自然吸気)スポーツエンジンだろう。
NAで高性能を狙うには、基本的に高回転/高出力型とならざるを得ない。エンジンは、回せば回すほどフリクションが増大し、馬力は出てもエネルギー効率は低下する。
その一方、500馬力超が普通となった最近の高性能車用としてはパワーが不足する。NAで500psを達成するには、リッター100psとして排気量5L以上。あのフェラーリですら主力エンジンをターボ化している昨今、大排気量NAが生き残るのは難しい。
もう二度と味わえない!? 超官能フィールの大排気量スポーツNA車
おそらく、内燃機関の中で最初に世の中から姿を消すのは、大排気量のスポーツエンジンだと思われる。
日本車でいえば、絶滅危惧種ナンバー1はレクサスRC FとGS F、LC500だ。
ヤマハ製5L・V8エンジンのサウンドは素晴らしく、官能性能がとても艶っぽくていいエンジンなのだが、パフォーマンスはもはやこのクラスとしては平均以下で、JC08モード8.3km/Lの燃費スペックも残念な数字だ。
ライバルとなる欧州プレミアム勢は、3社とも4L級V8ツインターボにダウンサイズ化して、さらに上のパフォーマンスと燃費性能を追求している。それに比べると、さすがにNAのままでは商品性の面でも厳しい。
アイドル停止機構を追加すればモード燃費は軽く1割以上アップすると思うのだが、それすら実施しないのはトヨタがこのエンジンをすでに見限っている証拠。次世代「F」は、たぶん大幅に電動化パワーを取り入れた高性能エンジンとなるのではなかろうか。
絶滅危惧種ナンバー2には、フェアレディZをあげたい。
スカイラインクーペがカタログ落ちした現在、Zは3.7L・V6(VQ37VHR)を搭載する唯一の車種となってしまったが、このエンジンの魅力はもっと評価されてもいい。
連続可変バルブタイミング(VVEL)や低フリクション化技術(ダイヤモンドライクカーボン)を駆使して、高回転までよく伸びてパンチのあるパワーフィールを実現。1.5tそこそこのZと組み合わせることで、軽快でぶっ飛んだ走りっぷりが味わえる。
特筆すべきは、こんな本格スポーツカーがベースモデルでは400万円を切っていること。300psオーバーのスポーツカーとしては、間違いなくコストパフォーマンス世界一。今のうちにぜひ乗っておきたい車といえる。
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