毎年、さまざまな新車が華々しくデビューを飾るかげで、ひっそりと姿を消す車もある。
時代の先を行き過ぎた車、当初は好調だったものの市場の変化でユーザーの支持を失った車など、消えゆく車の事情はさまざま。
しかし、こうした生産終了車の果敢なチャレンジのうえに、現在の成功したモデルの数々があるといっても過言ではありません。
訳あって生産終了したモデルの数々を振り返る本企画、今回はダイハツ ソニカ(2006-2009)を振り返ります。
文:伊達軍曹/写真:DAIHATSU、ベストカー編集部
■ミラをベースに開発されたダイハツ渾身のスペシャリティカー
「爽快ツアラー」というコンセプトのもと、ロングドライブを快適に楽しめる新ジャンルの軽自動車として2006年6月に登場。しかし2009年4月にはあえなく販売終了となった悲運の名車。それが、ダイハツ ソニカです。
ソニカは開発陣の“気合”が感じられる一台でした。全体のフォルムはダイハツが「コンパクトの常識を打ち破るロー&ロングフォルム」とうたった通りの低く長く身構えたプロポーション。
実際は全高1470mmですのでそれなりの高さはあるのですが、RSおよびRS Limitedではボディ下端を全周ブラックアウト処理するなどして、低く長いシルエットを強調しました。
搭載エンジンはKF-VE直3自然吸気をターボ化した「KF-DET」。そこに、公益社団法人自動車技術会が選定した「日本の自動車技術330選」にも選ばれた「インプットリダクション方式3軸ギヤトレーン構造」を採用した新開発のCVTを組み合わせています。
さらにそのCVTとエンジンの結合剛性を高めることで、エンジンノイズをそもそもの源流から低減。さらにさらに、車内に侵入する走行音を軽減させる目的でドア下端のゴムシールは二重化されました。
これらの相乗効果により、ソニカは「……高級車か?」と一瞬勘違いしてしまうほどの静粛性を誇る車となったのです。
走りっぷりにも凄いものがありました。
そもそも低重心かつロングホイールベースであることに加え、フロントとリアにはスタビライザーを装着(4WDはフロントのみ)。さらには各所に専用チューニングが施されたサスペンションを採用したことで、その操縦性と高速域での安定性、そして乗り心地の良さは軽自動車の枠を完全に超えています。
ついでに言えば、「爽快ツアラー」を目指しただけあってフロントシートの座り心地も良好でした。
しかしそんなソニカは冒頭で申し上げたとおり、発売からわずか2年10カ月で販売終了となってしまいました。
■短命に終わった理由は「需要を読み間違えた」から!?
名作としか言いようがないダイハツ ソニカが短命に終わってしまった理由。それは下記のひと言に集約できるでしょう。
「そこに市場がなかったから」
ダイハツのマーケティング部門としては2006年当時、以下のように考えたわけです。
「人々のライフスタイルの変化や小型車人気の潮流を総合的に考えると、自分らしさや二人の時間を大切にする『フリースタイルカップルズ』に、走りの質感が高い新ジャンルカーをお届けするべきだ。
そうすれば1台の経済的な軽自動車で、買い物と近場の移動だけでなく、長距離を走るバカンスなどにも活用していただける。そして、結果としてシアワセになってもらえる」
これは筆者が勝手な想像で言っていることではなく、ソニカの新車当時のプレスリリースに書かれている内容を、筆者なりに書き換えたものです。
その志というかチャレンジ精神は立派でした。そして実際出来上がったソニカという車も、まるでそのスピリットをそのまま車の形にしたかのような素晴らしい出来栄えでした。
しかし肝心の購買ターゲットであるフリースタイルカップルズ(まだお子さんのいない若夫婦、ぐらいの意味合いと思われます)は「それ」を求めていませんでした。
彼らが軽自動車に求めていたのは走りうんぬんではなく「広さ」と「背の高さ」であったことは、後の歴史が証明しています。
つまりダイハツは「読み間違えた」のです。
ビジネスとして見れば、人気薄の短命車を作ってしまった事実は「失敗」なのでしょう。でも、車単体として見た場合のソニカは絶対に「失敗作」などではありません。紛うことなき「名車」でした。
■ダイハツ ソニカ 主要諸元
・全長×全幅×全高:3395mm×1475mm×1470mm
・ホイールベース:2440mm
・車重:870kg
・エンジン:直列3気筒DOHC、658cc
・最高出力:64ps/6000rpm
・最大トルク:10.5kgm/3000rpm
・燃費:23.0km/L(10・15モード)
・価格:141万7500円(2006年式RS Limited 2WD CVT)
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