クルマは多種多様で、時には「ブサイクだ」なんていわれる不幸なクルマも存在する。中でも世界各国で話題となる絶対的ブサイクといえば、フィアットのムルティプラじゃなかろうか。ところがこのクルマ、じっくり見ると実に味わい深いクルマなのよ!
文/ベストカーWeb編集部、写真/ステランティス
■全世界公認のブサイク顔?
1998年11月16日、イタリアのフィアットが1台の小型MPV(多目的車)を発表した。
当時のプレスリリースを見てみると、フィアットはそのクルマを「明日の自動車」と説明している。ステータスではなく、仕事や娯楽の道具となる妥協なき実用車。これこそがフィアット ムルティプラだった。
実はフィアットがムルティプラ(※イタリア語で「多様な」の意)というクルマを作るのはこれが初めてじゃない。1955年に登場したフィアット600(500の兄貴分)にも同じ車名のモデルがあったのだが、これまたどっちが前か後か分からん、ミニバンの元祖のようなクルマだった。
さておき1998年に登場した新型ムルティプラは、全長4mを切るボディに横3人掛け×2列というシートを持ち、いざとなれば大量の荷物を積み込んでバカンスや仕事に大活躍する使い勝手を備えていた。しかしなによりもぶっ飛んでいたのは、そのデザインだ。
その外観は、ナマズのような小さな目を持ったボディに、温室のように巨大なガラスエリアが載った2階建てのような構造。そもそも顔付きにまとまりがなく、鼻先のロービームとは別にハイビームライトがフロントウインドウ付け根に付くという大胆さだ。
こいつの走る姿は両生類というかネコバスというか、とにかく二度見、三度見せずにはおれない異様さにあふれていた。ひと言でいえば、ものすごいブサイクだったのだ。
ムルティプラのブサイクっぷりは全世界共通だったようだ。たとえばイギリスのあるコラムニストは「こいつには実際に乗るべきだ。乗れば外観を見なくて済むから」と評している。「醜いクルマランキング」をやればトップの常連で、ベストカーの過去の企画にももちろん登場している。
■1990年代のフィアットはデザインの鬼だった!
しかしだ。このムルティプラ、じっと見ていると、ブサイクさを通り越して、味わいがにじみ出てくる。あとからホンワカと染みてくる日本料理の出汁みたいだ。
たとえばホイールベース。全長が4mに満たないのに2665mmもあり、四隅に張り出したタイヤが実にカッコイイ。バカでかい窓ガラスも、ほぼ腰の高さから車内に明るさをもたらしており、仲間とワイワイやるには格好の空間だったろう。
ちなみにこのクルマをデザインしたのは、フィアットのデザイン部門であるチェントロ・スティーレ(英語で言えばスタイル・センター)。
イタリアのクルマはもともとデザインが見事だが、1990年代のチェントロスティーレはさらに尖がっていて、ムルティプラ以外にもクーペフィアットやバルケッタといった「なんじゃこりゃ」的なクルマを生み出してきた。
それらのクルマたちに流れていたのは「個性こそがクルマの命」という強い意志。それを思えば、このムルティプラも、「何者にも似ていないMPVだった」という点で、クルマの歴史に強烈な爪痕を残したのだといえる。 クルマの黄金律をあえて壊してみせたムルティプラ。ブサイクを通り越して、見事な神グルマといえるのかもしれない。
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