ホンダ Zの悲哀 凝りすぎが仇になった超力作!?【偉大な生産終了車】

ホンダ Zの悲哀 凝りすぎが仇になった超力作!?【偉大な生産終了車】

 毎年、さまざまな新車が華々しくデビューを飾るその影で、ひっそりと姿を消す車もある。

 時代の先を行き過ぎた車、当初は好調だったものの市場の変化でユーザーの支持を失った車など、消えゆく車の事情はさまざま。

 しかし、こうした生産終了車の果敢なチャレンジのうえに、現在の成功したモデルの数々があるといっても過言ではありません。

 訳あって生産終了したモデルの数々を振り返る本企画、今回はホンダ 2代目Z(1998-2002)をご紹介します。

文:伊達軍曹/写真:HONDA


■「ミッドシップ+フルタイム4WD」で異彩を放った軽自動車

 ランボルギーニ ディアブロLMとある意味同じ「ミッドシップ4WD」というパッケージングを採用した前代未聞の、今で言う「SUV風デザイン」をまとった3ドア軽自動車。

 それが、1998年10月から2002年途中まで販売された2代目のホンダ Zです。

背の高さと15インチ大径タイヤが相まって、SUV風の外観をまとった2代目 Z

 1970年に軽自動車初のスペシャリティカーとして登場した初代Zと車名は同じですが、両者の間に特にコンセプト等の連続性はありません。

 初代Zはメカニズム的にはごく普通のFF車であったのに対し、2代目Zは何を思ったか、横倒しした3気筒エンジンをフロア下中央のやや後ろ寄りに縦置き搭載し、ビスカスカップリング式センターデフを介して前後輪を駆動するというUM-4(UNDERFLOOR MIDSHIP 4WD)を採用しました。

 これは非常にスーパーカーっぽい特殊なレイアウトですが、実際のところは「軽トラであるアクティ4WDのメカニズムを流用したかったから」という現実的な理由のほうが大きいはずです。

 とはいえ走るためのメカをボディ下半分に集約させ、上半分を「居住空間+荷室空間」としたことで、2代目Zの室内長はほとんど小型車並みの2380mmに。

 ホンダは当時これを「スーパーロングキャビン」と呼びました。ただ、いかにも5ドア車っぽいフォルムを持つ2代目Zでしたが、実際に用意されたボディタイプは3ドアのみです。

エンジンを床下に配置したことによって、小型車並みの居住空間を確保。
大人4人が快適にくつろげる「広々フラットフロア」、多彩なシートアレンジを謳った

 搭載エンジンは最高出力52psの自然吸気と、同64psのターボという2種類で、トランスミッションは両エンジンとも4速AT。

 ちなみにホンダがターボエンジンを起用したのは初代シティおよび初代レジェンド以来のことで、軽自動車用としてはこの2代目Zが初めてでした。

 以上のとおり、きわめて意欲的な作りだったことは間違いない2代目ホンダZでしたが、売れ行きは正直イマイチでした。

 その結果、発売から約3年後の2002年1月には生産終了となり、同年8月には在庫車の販売も終了。ホンダのカタログから静かに消えていきました。

■「時代の先取り」を技術で追いつかせようとしたことが仇に?

 2代目ホンダZがわずか約3年で消滅してしまった理由。それは「凝りすぎた」「重すぎた」「高すぎた」という3点に集約されるはずです。

 アクティ4WDからの流用を含むとはいえ、2代目Zが採用したUM-4(UNDERFLOOR MIDSHIP 4WD)というプラットフォームは非常に凝ったものでした。

 しかし当時の軽自動車を買っていた実際のユーザーは、そこまで凝ったメカニズムやコンセプトを軽自動車に求めていませんでした。

 それゆえ、「小型車並みの居住空間をもった新ジャンルのスモールカーの創造を、革新のプラットフォームUM-4(UNDERFLOOR MIDSHIP 4WD)により実現」(新車当時のプレスリリースより引用)というホンダの意気込みは、今にして思えば若干の「空回り」だったのでしょう。

パワートレインは後席下部に配置され、前後の重量配分は50:50を実現。しかしこの影響もあって全高は高くなってしまった

 また2代目Zは、その凝ったプラットフォームゆえに「重い軽自動車」でもありました。

 前後の重量配分は確かに理想的なのですが、凝った車台と大柄なボディのおかげで車両重量はほぼ1トン近く。64psのターボエンジンならさておき、52psの自然吸気エンジンでキビキビ走らせるのは困難でした。

 また凝ったメカニズムを採用したがゆえに、2代目Zは車両価格も高くなってしまいました。

 ターボ版にABSを付けた場合の新車価格は133万8000円ですので、普通車であるホンダHR-VのABS付き2WD車(138万4000円)とほとんど変わりません。まああとは「3ドアしかなかった」というのも、人々に購入を躊躇させた要因のひとつではあるでしょう。

見やすさと使いやすさに注力した操作系とスイッチ類。またアイポイントが高く、視界は良だった

 このように「空回り」で終わってしまった2代目ホンダZですが、そのコンセプト自体には光るものがありますし、「少し背が高いクロスオーバーSUVっぽいデザイン」というのも、まさに時代を先取りしていました。

 それゆえ、現代の軽量化技術を駆使して「キビキビ走れる軽量な3代目のホンダZ」を作ったらけっこう売れるような気もするのですが……果たしてどうでしょうか。

■ホンダ Z 主要諸元
・全長×全幅×全高:3395mm×1475mm×1675mm
・ホイールベース:2360mm
・車重:970kg
・エンジン:直列3気筒SOHCターボ、656cc
・最高出力:64ps/6000rpm
・最大トルク:9.5kgm/3700rpm
・燃費:15.6km/L(10・15モード)
・価格:128万8000円(1998年式Zターボ)

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