モリゾウさんがスーパー耐久シリーズ第5戦鈴鹿を走ったGRヤリスDAT。外見こそ変わらないが、装着されたロールゲージには画期的な技術が採用されていた。いったい何が変わったのだろうか?
※本稿は2024年10月のものです
文:ベストカー編集部/写真:トヨタ、ベストカー編集部
初出:『ベストカー』2024年11月10日号
■モータースポーツならではの溶接技術
サーキットを走るにせよ、ラリーにせよ、乗員保護のために欠かせないのがロールケージ。
これまでロールケージの溶接は手作業に頼ることがほとんどだったが、GRと産業用ロボットを製造する株式会社安川電機が共同で開発したアーク溶接新技術・SFA(Sequence Freezing Arc-welding)がロールケージ製作を劇的に変えた!
アーク溶接とは簡単にいえば金属の溶接棒(ワイヤ)を使い、放電現象を利用して溶接する方法。SFAは電極の間に電流を発生させ、溶接棒(ワイヤ)を溶かしながら溶接していく。
従来のロボットを使った溶接は効率やスピードを求めてきた。しかし、SFAでは「人よりもゆっくりと、丁寧に!」を実現している。具体的にはセンシング技術により高熱と冷却の時間を絶妙にバランスさせることで、溶接部分の合金化が可能となる。
ビードと呼ばれる溶接部分の盛り上がりが画一的できれいなのが特徴で、従来の手作業に比べるとビードの重量は約25%も軽くなるという。また、しっかりと合金化されることで、せん断強度や剥離強度が約10~25%アップするとされる。
また、アーク溶接によるショット溶接が可能になり、これまでのスポット溶接に比べ、剛性は同等で、打つポイントの自由度が格段に上がるという
実際のクルマに装着する工程はサブASSYによってロールケージを製作し、溶接されるボディを加工、そしてボディへの増し打ちと流れていき、手作業では2〜3週間かかるところを3日で仕上げることができる。
実際にアーク溶接新技術・SFAで作られたロールケージを装着し、約500のアークSFAのショット溶接が施されたGRヤリスDATの走りは激変! たっぷりのボディ剛性のおかげで、前後のばねを大幅に柔らかくすることができ、足がしなやかによく動くセッティングにできるという。
モリゾウさんも「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくりのなかで、価値観を変えることができる」と高評価。一方で、「人にとって代わるのではなく、人が溶接のワザを磨いていくきっかけになればいい」と語る。
GRヤリスのチーフエンジニア、齋藤尚彦氏は「将来的には日本のお客様にもアーク溶接で作られたロールケージを装備したGRヤリスを提供できるようにしていきたいです」と語る。
手作業に比べると性能面はもちろんだが、コストの圧縮も期待でき、「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」というGRのミッションがまたひとつかなえられることになるはずだ。
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