30年以上経っても輝きを失わない、究極の2ストロークレーサーレプリカ「NSR250R SP」

30年以上経っても輝きを失わない、究極の2ストロークレーサーレプリカ「NSR250R SP」

取材協力:バイク王つくば絶版車館

 「レーサーレプリカ」という言葉がまだバイクシーンの主役だった時代、各メーカーは毎年のようにモデルチェンジを繰り返してその性能を競った。そして、レーサーレプリカの絶対王者とも言えたのが、ホンダの「NSR250R」だろう。

 
文/後藤秀之
 

熾烈を極めた2ストロークレーサーレプリカ開発競争

 初代NSR250RであるMC16型が登場した1987年は、バイクブームの真っ盛りであった。ホンダは1984年にNS250Rを発売していたが、その翌年の1985年によりレーサーTZに近いパッケージで発売されたヤマハのTZR250が発売された。TZRに対抗すべく開発されたNSR250Rは、市販レーサーRS250をそのまま公道に持ち出したような過激なスタイルとスペックで一躍人気モデルとなった。



先代に当たるMVX250FのV型3気筒エンジンの不評を受け、新開発のV型2気筒エンジンをアルミフレームに搭載したNS250Rは、フルカウルを得て本格的なレーサーレプリカとなった。



並列2気筒エンジンをアルミデルタボックスフレームに搭載したヤマハのTZR250は、レーサーTZ250のフルレプリカと言えた。



デルタボックスフレームを採用したTZR250の登場に対抗し、レーサーRS250譲りの目の字断面のアルミ製ツインチューブフレームを採用した初代MS16型NSR250R。

 当時はレースも盛んで、最も盛り上がっていたのは4ストロークの400cc以下、または2ストロークの250cc以下で競う「TT-F3」というクラスである。2024年までST600クラスで行なわれている鈴鹿4時間耐久レースも2000年まではこのTT-F3レギュレーションで行なわれており、免許制度の関係もありこのクラスの開発に各メーカーが注力していた。

 特に車検の無い2ストローク250ccクラスは人気が高く、ホンダはNS250RからNSR250R、ヤマハはTZR250、スズキはRG250γ、カワサキはKR250からKR-1と過激とも言えるスペックを持ったマシンが次々に発売され、レーサーレプリカブームを牽引した。このライバルたちの中でホンダだけ最初からV型エンジンを採用しており、後にヤマハとスズキがV型エンジンへとスイッチ、カワサキはこの2ストロークレプリカ戦線から離脱している。



アルミフレームやフレームマウントのカウルなどを装備したスズキのRG250γは、日本初の本格的なレーサーレプリカとしてレプリカブームをを牽引した。



カワサキのKR250はタンデムツインという珍しい形式のエンジンをアルミフレームに搭載し、カワサキ独自のデザインのカウルを装着した。

 NSR250Rは1988年にMC18型へ、1990年にはMC21型へ、1993年にMC28型へとフルモデルチェンジが行なわれた。型式としては4つだが、カラーリングやカウルのデザインなど毎年モデルチェンジが行なわれている。今回撮影させていただいたのはNSR250Rとしては最終型となるMC28型で、乾式クラッチやマグネシウム製ホイール、減衰力調整機構付きの前後サスペンションなどを備えたNSR250R SPだ。



「ハチハチ」の愛称で知られる1988年式のMC18型NSR250R。歴代最強とも称され、フレームは五角形目の字断面を採用し、コンピューター制御されるPGM-キャブレターも採用された。



1988年式のMC18型で、初めてマグネシウムホイールを装備した「SP」がラインナップされた。この型ではまだ乾式クラッチは採用されていない。



1989年式も型式としてはMC18型になるが、カウルのデザインは大きく変更され、PGM-IIへと制御システムが進化。SP仕様には乾式クラッチと減衰力調整機構付サスペンションが採用された。



1990年に登場したMC21型ではカウルのデザインが大きく変更され、ワークスレーサーNSR500譲りのガルアームが採用された。また、制御システムはPGM-IIIへと進化している。



1993年にはMC28型へとモデルチェンジ。スイングアームにプロアームを採用し、電子機能を持たせたPGMメモリーカード・システムが採用された。

 
 
 

プロアームとPGMメモリーカードを採用したMC28

 MC28型のNSR250R最大の特徴は、電子機能を持たせたPGMメモリーカード・システムを採用したことと、リアのスイングアームがプロアームになったことだ。



今回撮影させていただいのは1995年式のMC28型NSR250R SP。マグネシウムホイール、乾式クラッチ、前後減衰力調整機構付サスペンションという三種の神器を備えている。



MC28型最大の特徴とも言えるリアのプロアームは、当時のホンダのレーシングスピリッツを象徴するパーツと言えた。



ハンドルが低く、ステップの位置もかなり高いが、跨ると車体の軽さもありリッタークラスのスーパースポーツのような威圧感はない。



身長171cm、体重65kgのライダーが跨った状態。両足を着くと軽くかかとが浮く感じになるが、車体が軽量なので不安は無い。

 パワーユニットは初代MC16から改良を重ねつつ使い続けられている2ストロークV型2気筒249ccのMC16Eだが、自主規制の強化によって最高出力がそれまでの45PSから40PSへとダウン、最大トルクも3.7kgmから3.3kgmにダウンしている。この出力はエキゾーストシステムとエンジンマネージメントシステムによって行なわれており、レースに出場する場合はレース用のキットパーツの装着とHRCから供給された競技用PGMメモリーカードを使用することで70PSを超える最高出力を発揮したと言われている。今回撮影させていただいたのはSPなので、クラッチは乾式となっている。



ヘッドライトのデザインはMC21型から大きく変わっていないが、常時点灯タイプに変更されている。



メーターはアナログ式のタコメーターと、デジタル表示のスピードメーターの組み合わせとなる。



スイッチ類が多数並ぶ左側のスイッチボックス。ハザードランプはこのMC28型で初めて採用された装備だ。



ハンドル左側にはキルスイッチのみが装備され、スロットルホルダーと別体になっている。



レーサーレプリカらしいフレームに沿ったデザインのフューエルタンクは、容量16Lとなっている。



「ペラペラ」のシートはまるでレーサーのようで、シートパッドと呼ぶのが相応しいかもしれない。



この車両では取り外されているが、タンデムシートも装備されていた。シートを外すことでシングルシート化できた。



エンジンは初代モデルから改良を重ねつつ使い続けられてきたMC16E型。自主規制の強化に合わせて、最高出力は40PSへとダウンしている。



エンジンスタートはキックオンリーとなる。SPモデルには乾式クラッチが採用されている。



撮影車にはNSRシリーズの定番とも言える、城北ホンダオート製の「Jhaチャンバー」が取り付けられていた。

 足回りの大きな特徴であるプロアームは、元々ホンダの耐久レーサーがタイヤ交換の時間を短縮するために開発したものであり、GP用のレーサーであるNSR250には採用されていない。しかし、市販レーサーのRS250Rは1993年モデルからプロアームが採用されており、NSRのプロアーム採用はホンダのレーサーイメージを大きく出すために採用されたと言えるだろう。それともうひとつ、ガルアームはヤマハがパテントを持っており、その使用期限が1993年いっぱいだったためそれに代わるスイングアームとして白羽の矢がたったのである。プロアームはルックスのインパクトとしてはそれまで採用されていたガルアームよりも大きく、他のメーカーの2ストロークレーサーレプリカとの差別化を行なうことで商品性のアップにもつながったと言えるだろう。フロントフォークはコンベンショナルな正立タイプのフロントフォークだが、SP仕様は前後のサスペンションが減衰力調整機構付きとなり、ホイールはマグネシウム製が奢られている。



リアのスイングアームにはプロアームを採用。プロアームはホンダとフランスのエルフが共同開発したものだ。



フレームは極太の五角形目の字断面で、レーシングマシンを彷彿とさせるもの。レーサーベースとしても通用する性能を支えた。



フロントフォークは正立タイプで、減衰力調整機構付き。SPのホイールはマグネシウム製となる。



フロントブレーキはニッシン製の4ポットキャリパーと、276mm径ディスクローターを組み合わせる。



リアホイールはセンターロックタイプで、ブレーキローターやスプロケットなどは左側に取り付けられる。

 
 

2ストロークエンジン車の最高峰

 高い完成度を誇ったMC28型NSR250Rはレースでも活躍したが、1989年に発売されたゼファー400によって時代はネイキッドブームへと移行。大幅なモデルチェンジをすることなく1996年に最後のモデルチェンジを行ない、1998年の排出ガス規制に対応することなくNSR250Rはその歴史に幕を下ろした。

 1995年型のNSR250Rは発売当時税別80万円であったが、現在中古車の価格を調べると安いものでも150万円、高いものだと500万円というプライスタグが付けられている。手に入れるにはもう高くなりすぎてしまったとは思うが、今はもう生産されていない2ストロークエンジン搭載車の最高峰とも言えるNSR250Rシリーズは、今後さらに値上がりしていくことになりそうだ。

NSR250R SP主要諸元(1995)

・全長×全幅×全高:1970×650×1045mm

・ホイールベース:1340mm

・シート高:770mm

・車両重量:156kg

・エンジン:水冷2ストロークV型2気筒249cc

・最高出力:40PS/9000rpm

・最大トルク:3.3kgm/8500rpm
・変速機:6段リターン

・燃料タンク容量:16L
・ブレーキ:F=ディスク、R=ディスク

・タイヤ:F=110/70-17、R=150/60-17
・価格:80万円(税別当時価格)

撮影協力:バイク王つくば絶版車館



PR:【期間限定】ガソリンが6ヶ月最大7円/L引き ≫

PR:かんたん5分! 自動車保険を今すぐ見積もり ≫

新車不足で人気沸騰! 欲しい車を中古車でさがす ≫

最新号

次期型ランドクルーザーFJ予想カタログ! 大好評3人が斬る企画も掲載のベストカー6.10号発売中

次期型ランドクルーザーFJ予想カタログ! 大好評3人が斬る企画も掲載のベストカー6.10号発売中

ちわ! 勤務中の小さな愉しみ・電話取りを極めすぎて、休日でも職場と同じ着信音が聞こえれば反射的に手が…