■日頃の“足”に恵まれていた場所
夕張炭鉱が現役だった時代、掘り出した石炭を運び出すために多くの線路が敷かれていた。石炭列車はもとより旅客列車も運転されており、当時の国鉄夕張線(後のJR石勝線夕張支線)が交通の大動脈を担っていた。
国鉄の線路のほか、炭鉱会社による「夕張鉄道」という私鉄の路線が、夕張〜栗山〜野幌間およそ53kmを、札幌エリアまでショートカットするような経路で結び、全区間運転の旅客列車を1971年、石炭列車を1975年まで運行していた。
一方の路線バスを見ると、1974年頃で現在のJR室蘭本線の栗山駅を乗り換えポイントに置き、夕張市街地から札幌方面までバスで行ける路線網が作られていた。
夕張〜栗山駅間が1日15往復程度だったのに対して、栗山駅〜札幌間は1日3〜4往復と、どちらかといえば札幌よりも栗山駅周辺へのアクセスに重点を置いたダイヤ設定と言える。
■鉄道がなくなり、そしてバスまで!?
国鉄夕張線はその後JR北海道に継承されて石勝線夕張支線になり、石炭列車がなくなった後も長い間存続していたが、利用者の低迷により減便や運行区間の短縮が行われ、最終的には2019年4月に新夕張〜夕張間が廃止された。
2023年8月現在、夕張の公共交通機関はタクシーを除くとバスだけになった。地元のバス事業者である夕鉄バスが運行する夕張市内線をはじめ、新さっぽろ駅前〜栗山駅〜夕張周辺を結ぶ普通便と、新さっぽろ駅前〜由仁駅前〜夕張周辺を結ぶ急行便がある。
札幌方面へ乗り換えなしで直行できるバス路線では、栗山駅を経由するバスが、かつて運行していた夕張鉄道の鉄道線にかなり近い経路を通るため「私鉄の代替バス」とも取れる。
夕張を朝出て昼過ぎか夕方に戻って来られる、夕張側を起点にしたダイヤ設定になっており1日3往復の運行。夕鉄本社ターミナル〜新さっぽろ駅前間の所要時間が約2時間10分、運賃は1,540円だ。
急行便のほうは、1970年代に大夕張〜由仁駅前〜札幌大通り間を結んだ「札幌急行」の末裔的な存在と言える。平日1日4往復、土日祝が3往復で、夕鉄本社ターミナル〜新さっぽろ駅前まで約1時間25分、運賃は1,540円で栗山経由と変わらない。
ところが残念なことに、普通便/急行便ともに、利用者の減少や近年問題になっている運転手不足などの事情により、2023年10月1日に廃止が決定。炭鉱時代の名残を持つ数少ない公共交通機関が、開坑131年目にして二つ消えるわけだ。
これにより、10月1日からは新さっぽろ駅前方面への直通便が全てなくなる。廃止対象路線のうち夕張周辺〜栗山駅間は登録予約制デマンド交通への転換が予定されているとのこと。
バスの廃止後は、JR線を使って新夕張から夕張市内線に乗り換えるか、札幌駅前ターミナル〜レースイリゾート(夕張市内)間を1日3往復結んでいる、北海道中央バスの「高速ゆうばり号」を利用するのが、札幌方面から夕張への基本的なアクセス方法となる。
日本が歩んだ石炭産業の片鱗に触れるなら、夕張は今も見逃せない場所だ。
【画像ギャラリー】夕張の街をとりまく炭鉱跡と交通機関(13枚)画像ギャラリー