2025年3月、BEV事業に意欲を見せる台湾の企業、鴻海精密工業が、三菱自動車と業務提携するとの情報が流れた。これは公式の発表ではないが、その衝撃は大きい。三菱、そして鴻海の動きは、そして三菱と関係の深い日産への影響は!?
※本稿は2025年4月のものです
文:井元康一郎、国沢光宏/写真:三菱、ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2025年5月10日号
まさに寝耳に水! 日産じゃないの!?
2025年3月下旬、台湾の電子機器世界大手グループ、鴻海(ホンハイ)科技集団の中核企業である鴻海精密工業(以下鴻海)と三菱自動車が業務提携に踏み切るというニュースが飛び込んできた。
4月2日時点では正式な発表はなされていないが、グローバルメディアからも追跡報道が相次いでおり、ほぼ本決まりとみられる。
報じられている提携のネタは、鴻海がBEV(バッテリー式電気自動車)を三菱自動車に供給するというもの。BEVを今後の成長のトリガーにしたいと考えている鴻海にとっては海外での本格的な事業展開の橋頭堡となり得る事案である。
鴻海は、1974年に当時24歳の青年実業家、郭台銘氏が創業した企業。日本では2016年のシャープ買収の時に一躍その名を知られるようになった。
電子部品を基幹に成長してきた鴻海が自動車事業への進出を表明したのは、同じ台湾の自動車製造会社である裕隆汽車と合弁でフォックストロン社を設立した時。
2023年には日産自動車出身の関潤氏を招き入れ、業容拡大への布陣固めを図っている。鴻海は電子業界でもアップルのスマートフォンの受託生産など、アウトソーシングの受け皿となることを得意としている。
自動車では自前のモデルも発表しているが、それは自動車開発・製造技術の高さを示すという目的が多分に含まれており、電子部品と同様に受託生産を事業成長の主軸とみている可能性が高い。多角化が難しい小規模メーカーである三菱自動車にとっては格好の提携相手と言える。
井元康一郎が視る「三菱の企業規模を考えればおおいにメリットあり」
鴻海といえば2024年、経営危機からの再建を模索する日産自動車がらみでもその名が報じられた。交渉の事実はないとコメントしているが、鴻海は日産の大株主であるルノーとの接触をはかるといった動きを見せており、鴻海側に一定の意思があったものとみられる。
日産が鴻海への拒否感を示したのは、経営権の一部を握られる出資を伴う話だったことが大きいが、三菱自動車の場合は今のところTOB(株式の公開買い付け)などによる経営権の取得ではなく、あくまでBEVのOEM(相手先ブランドによる供給)が主軸となっていることから、そういう拒否感は生まれにくい。
この案件は三菱自動車と鴻海にとってどのようなメリットがあるのだろうか。
三菱自動車にとってはそれなりに大きなメリットがある。当面は得意としているのはPHEVだが、エンジンを搭載しないBEVも並行して開発しなければならない。企業規模の小さい三菱自動車にとって負担が大きい二正面作戦の一端をアウトソーシングですませられれば、プレッシャーはかなり小さくなる。
鴻海側としては、先進国・日本の巨大コングロマリットである三菱グループがバックに付く三菱自動車からの製造を受託することは、世界の自動車業界で存在感を高める格好の機会。それを突破口に、ホンダ、日産との緩やかな連合を組むことも現実味を帯びてくる。
このようにWin-Win色の濃い鴻海と三菱自動車の業務提携だが、実際のビジネスはまだ始まってもいない。独自色を生かしながらどのくらいのスピード感で協業を進められるかが今後の焦点となるだろう。






















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