共同運行とは、「戦略的な業務提携」のこと。バス事業者同士が良きパートナーとして高めあえる関係を築くのが理想の姿だ。今、続くコロナ禍において地方側事業者の地元での「神通力」と補完しあえるのは、どのような事業者か?
(記事の内容は、2022年3月現在のものです)
執筆・写真/成定竜一
※2022年3月発売《バスマガジンvol.112》『成定竜一 一刀両断高速バス業界』より
■コロナ禍で共同運行に変化も
コロナ禍による需要減に伴い、各地で、高速バスの共同運行会社間の関係に変化が起きているように見える。
その端的な例が京浜急行バスの夜行路線撤退だ。弘前線「ノクターン号」を端緒に東京発着の私鉄系夜行高速バスをリードした同社だが、その弘前線開業35周年を待たず夜行の全路線から撤退した。
長距離夜行路線は運行コストの多くを人件費が占め、人件費水準が比較的高い大手私鉄系事業者らで収益性に劣る。
地方都市からの「朝イチで東京、大阪(または夜まで東京、大阪)」という需要に応えてきたが、新幹線網拡充によりその役割が低下。京急で最後に残った4路線が、いずれも新幹線のない都市であった点は象徴的だ。
■変化の速さに対応が困難に
京急のように片側が撤退する以外では、共同運行先間でダイヤや運賃などの戦略が嚙み合わないケースも目立つ。また、近隣の路線を統合すれば乗車率上昇を見込めるが、その調整もなかなか進まない。
理由は「メインバンクが求める売上予算」との兼ね合い、という経営面から乗務員運用の話まで絡み、複雑だ。
たとえば、ある昼行路線の片側の事業者は、高速バス専門の営業所が昼行路線も夜行路線も担当する。もう一方は、路線バス営業所の乗務員が公番の中で高速バス路線も受け持つ。
よくある組み合わせだが、運行管理の都合から、前者は曜日別ダイヤを嫌い、後者は早朝深夜の発着を組みづらい。結果、仮に「2割減便」で合意しても、具体的なダイヤ編成に入るとお互いの利害が合わない。
さらに複数路線を統合するともなると、各社の経済的利得(取り分)から過去の遺恨やメンツにまで話が及び、結論が見えない。
経営体力も、本社や現場の人員も余裕がない今、長年のパートナー同士でも妥協は容易ではない。
そんな中、興味深い事例が現れた。祐徳自動車が、ウィラーのブランドで佐賀・福岡~大阪線に参入したのだ。
同社は佐賀県で長い歴史を誇る路線バス事業者だが、高速バスには消極的でしばらく運行していなかった。一方、県内のほか福田でも(以前は東京でも)貸切バス事業を持つが、貸切の市場は先細りだ。
そこで、車両や販売などの面でウィラーのノウハウを活用する形で、高速バス事業を再開した。
乗客から見れば、ウィラーの福岡~大阪線の実質的な増便だが、さすが祐徳というべきか、地元佐賀県でのメディア露出も目立ち、当該便の乗車率は好調なようだ。
ウェブによる集客などウィラーが得意な「空中戦」と、祐徳ならではの地元での存在感という「地上戦」の、ちょうどいい補完関係が成立している。
冒頭で挙げた京急撤退路線のうち弘前線、宮古線が現地事業者の単独運行で維持されるのも、顧客が地方側事業者に紐づいているからだ。具体的には、以前なら「予約センターの電話番号を記憶」、今では「公式予約サイトに会員登録」ということだ。