「今の時代、おっさんはどんなクルマに乗るべきか?」
いやもちろん、どんなクルマに乗ったっていいのだが、アナタ(おっさん)が仮にクルマ好きなら、周囲のクルマ好きからどう見られるかを意識するはずだ。そして少なくとも、「シブイなぁ!」とか、「わかってるね~」と思われたい、と願うのではないだろうか? そういう選択を、ワタクシ清水草一が独断で展開いたします!
文/清水草一
写真/ダイハツ
■おっさんになると変わる!? かわいいモノの見方
男はおっさんになると、自分の体力や知力の低下をクルマで穴埋めするため、パワフルで男らしいクルマに乗りたくなったりする。
しかし同時におっさんは、かわいい生き物に弱くなりもする。子犬や子猫のかわいい動画に見入ってしまうおっさんは少なくない。これは、男性ホルモンの低下によって、押さえつけられていた母性本能が元気になる(?)せいだ。
実際のところ男は、自分の赤ん坊をあやしていると。男性ホルモンであるテストステロン量が低下することが確認されている。逆に「幸せホルモン」とも呼ばれるセロトニンは増加する。ぶっちゃけ、脳内がママに近くなるのである。孫やペットをあやすおっさんは、おっさんなのにママ気分なのだ。
クルマの世界にも、孫やペットのような存在がいる。いわゆる「カワイイ系」のクルマたちだ。若いころはそういうクルマを見て「吐き気がするぜ!」などとうそぶいていても、おっさんになると、つい「かわいい……」「守ってあげたい!」などと思うようになる。
かく言う私も、ムーヴ ラテ(2004年登場)に対しては「あんなクルマを見ると目が腐るわ!」くらいの罵詈雑言を吐いていたが、今ではカワイイ系のクルマを見ると、つい癒されてしまう。なかには「乗りたい……」と思ってしまうクルマもある。その代表がムーヴ キャンバスだ。
2016年に登場したムーヴ キャンバス(初代)を初めて見た時から、おっさんの心はときめいていた。かつては唾棄すべき存在と思っていたカワイイ系の軽を、心の底からカワイイと思ってしまったのだ。
■無敵の可愛さと弱点を両方持ち合わせた初代モデル
ムーヴ キャンバスは、ただカワイイだけではなく、ワーゲンバス(VWタイプII)をモチーフにしているという、クルマ好きの心の琴線に触れる面があった。クルマ好きなら大抵好意を抱いているワーゲンバスが、小さく、かわいくなって登場したのだ。クルマ好きとしては、「これはカワイイ系じゃない! レトロ系だ!」という大義名分ができた。
ムーヴ キャンバスは、トールワゴンとハイトワゴンの中間的な全高だったのものちょうどよかった。アルトベースのアルトラパンも猛烈にかわいいが、さすがに小さすぎて、乗ると自分が小動物そのものになるような感覚に襲われる。確かにアルト ラパンはかわいいけれど、自分が乗ってしまったら、周囲から愛される以外に生きる術がない(ように思える)。それは男として避けたい。
しかしムーヴ キャンバスくらいの全高があれば、踏みつぶされる虫のような無力感は抱かずに済む。と言っても周囲を威嚇することはできないが(アタリマエ)、最低限の自己防衛的なテリトリー性は確保できる。つまり、男として最低限のセンは維持しつつ、かわいさを満喫できるのだ。
私は初代ムーヴ キャンバスに乗って、心の底から安寧を感じた。おそらくセロトニンがドバドバ分泌されていたのだろう。それは、子犬の頭をなでているのに近かった。
もちろん、ムーヴ キャンバスを拒絶するおっさんも少なくなかった。「冗談じゃない、こんなカワイイのにおっさんが乗れるか!」と思うのは、昭和世代ならごく自然な反応だ。しかし、子犬のかわいさには、ある意味無敵のパワーがある。子犬にシッポを振られて、しかめっ面を続けるのは難しい。ムーヴ キャンバスを拒絶するおっさんは、ただ恥ずかしがっていただけと言えなくもない。
ただ、ムーヴ キャンバスには弱点があった。あんまり速く走れなかったのだ。足まわりは完全に癒し系で、エンジンはノンターボのみ。そもそも速さをまったく求めていないクルマだったので当然だが、速く走るのは無理だった。
ところが! 2022年に登場した2代目ブーヴキャンバスは違った。かわいさはそのままに、速く走れるようになっていた。
コメント
コメントの使い方