毎年、さまざまな新車が華々しくデビューを飾るかげで、ひっそりと姿を消す車もある。
時代の先を行き過ぎた車、当初は好調だったものの市場の変化でユーザーの支持を失った車など、消えゆく車の事情はさまざま。しかし、こうした生産終了車の果敢なチャレンジのうえに、現在の成功したモデルの数々があるといっても過言ではありません。
訳あって生産終了したモデルの数々を振り返る本企画、今回はスズキ X-90(1995-1997)を振り返ります。
文:伊達軍曹/写真:SUZUKI
2シーターながらラダーフレームの本格派!
「2シーターのクロスオーバーSUV」という、ちょっと聞いただけで脳内に疑問符が10個は並ぶ車。それが、1995年10月から1997年12月までの約2年間のみ販売されたスズキ X-90です。
写真で見るとカプチーノという軽自動車ぐらいのサイズにも見えますが、実際は初代エスクードというSUVの3ドア版がベースですので、まあまあのサイズ感です。具体的には全長3710mm×全幅1695mm×全高1550mmであります。
ついでに言えば、初代エスクードがベースであるため、X-90の車体構造は一般的なモノコックではなく、屈強なクロカン四駆に用いられることが多いラダーフレームを採用しています。2人乗りのクロスオーバー車だというのに。
このように突拍子もない作りの車(?)がなぜ市販されたかといえば、きっかけは「モーターショー」でした。
1993年の東京モーターショーと、世界各地のショーにコンセプトカーとして展示されたスズキ X-90は、各国のプレスから妙にウケたのです。それを受けてスズキは「よっしゃ、わかった!」という感じでほぼコンセプトカーの姿のまま、市販に踏み切ったわけです。
搭載エンジンは最高出力100psの1.6L直4SOHCで、トランスミッションは5MTまたは4速AT。そして駆動方式は超本格クロカン同様のパートタイム式4WDなのですが、「脱着可能なルーフはトランクに格納可能!」「一般的な立体駐車場にも入る!」という感じの都会派でもありました。
で、そのような謎コンセプトの2シーターSUVが売れたかといえば、当然売れるはずがなく、スズキ X-90は登場から約2年であえなく生産終了。日本国内での販売台数はわずか1400台弱だったそうです。
今なお人気高いX-90 生産終了の「訳」は?
スズキ X-90がなぜ「訳あって生産終了になったのか?」といえば、これはもう訳もへったくれもなく、ただただ「すべてがちぐはぐだったから」ということに尽きます。
家族や仲間内で乗りたい場合も多いはずのクロスオーバーSUVなのに、なぜか2シーター。
都会での使用を想定して、最低地上高は(SUVとしては)低めにし、全高も立体駐車場に対応できる寸法に抑えているのに、なぜか本格的なラダーフレームの副変速機尽き4WD。
それなのに、「どうぞオープンエア感覚もお楽しみください」と言わんばかりの、脱着可能なTバールーフ。
……冷静に考えれば「スズキよ! バブルもとうに弾けた1995年にもなって何やってんだ!」と思わず言いたくなります。「そんなモン売れるはずがないだろ!」と。
しかし、そういった珍妙な(?)コンセプトカーでも、評判が良ければサッと市販してみるのが、スズキという会社のフットワークの良さなんでしょう。また、「やっぱダメか!」とわかったらさっさと生産終了にする判断の速さも、スズキという会社の美点なのかもしれません。
そもそもX-90のデザインは、変といえば変ですが、ある種のカッコ良さみたいなものは確実にあります。また「2シーターのクロスオーバーSUV」という謎コンセプトも、メジャーな自動車メーカーだから謎と感じるだけで、どこかの小規模コーチビルダーの作品であったならば、喝采されていた可能性も大です。
そういう意味でスズキ X-90は、「迷車であると同時に名車でもある」といえるのかもしれません。実際、中古車市場では今なおけっこうな人気が(一部で)ありますしね。
■スズキ X-90 主要諸元
・全長×全幅×全高:3710mm×1695mm×1550mm
・ホイールベース:2200mm
・車重:1080kg
・エンジン:直列4 気筒SOHC、1590cc
・最高出力:100ps/6000rpm
・最大トルク:14.0kgm/4500rpm
・燃費:13.4km/L(10・15モード)
・価格:136万円(1995年式 5MT)
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