少し前によく見かけた、ヘッドレストの中央部に大きな穴があいている「穴あきヘッドレスト」。しかし最近は、現行モデルで採用しているクルマはほとんどなく、シート一体型ヘッドレストや、ヘッドレスト裏面にモニターを装備するなど、様変わりしています。
なぜ、穴あきヘッドレストは廃れたのでしょうか。そもそもヘッドレストに空洞があることに何の意味があったのでしょうか。最近のヘッドレストの動向を踏まえて、ご紹介します。
文:Mr.ソラン、エムスリープロダクション
写真:HONDA、NISSAN、MITSUBISHI、
穴あきヘッドレストの狙いは、視認性と開放感の向上
穴あきヘッドレストを世界で初めて採用したのは、1982年の「アウディ100」です。前席、後席とも穴あきヘッドレストを装着することによって、ドライバーの後方視認性が改善し、後席の乗員からは前方の視認性や開放感が得られるメリットがあるとされていました。
日本でも、1980年代後半から1990年代にかけて、三菱の2代目「パジェロ(1991年登場)」、スズキの初代「エスクード(1988年登場)」、ホンダの3代目後期「シビック(1985年登場)」、初代「ストリーム(2001年登場)」、日産の「初代プリメーラ(1990年登場)」、3代目「マーチ(2002年登場)」など、セダンやSUV、ワンボックス、軽自動車など多くのモデルに穴あきヘッドレストが採用されました。
前席シートに大きなヘッドレストが付いていると、後席の乗員は、前方視界が遮られることで、狭苦しく窮屈に感じてしまいますが、ヘッドレストに大きな空洞があることによって、視認性の向上の他にも、室内空間が広く感じられ、快適性や開放感が得られるメリットがあったのです。
廃れたのは、アクティブヘッドレストの普及が最大の要因
しかしながら、2000年以降は穴あきヘッドレストは激減していきます。その最大の理由はアクティブヘッドレストの普及です。
ご存じのとおり、ヘッドレストは「枕」ではなく、むち打ち傷害を軽減する乗員保護装置。後突されたときに頭部が後ろに傾くことを防止してくれるものです。日本国内で発生している交通事故のうち、約半数は追突事故であり、受傷の9割が首の傷害。近年は、交通事故は減ってきており、死者数も減ってはいるものの、負傷者のむち打ち障害事例は相変わらず多いのが実情。
このむち打ちの症状を少しでも軽減するため、自動車メーカー各社は、座面やシートバックともにヘッドレストもしっかりした肉厚な構造とし、積極的に頭を支えて首を守る設計や技術を採用するようになりました。追突時にヘッドレストを自動的に適正な位置へ移動させるアクティブヘッドレストはその代表例。追突時に背中がシートバックを押すと、テコの原理でヘッドレストを前方に移動させて頭を拘束する方式のほか、シートバックを後ろに倒して衝撃を吸収して頭部を保護する方式、また、センサーが衝突を避けられないと察知したら、衝突前にヘッドレストの位置を最適化するシステムなど、さまざまありますが、ヘッドレストが「衝突被害軽減」という重要な役割をもったことで、穴をあけることができなくなったのです。
ちなみに、アクティブヘッドレストを日本で初めて採用したのは、1998年にマイナーチェンジした日産の3代目「シーマ」、日産は2002年からアクティブヘッドレストの全車展開を進めました。
また、後席のヒップポイントが前席より高く設定された(ことで後席からの視認性が向上した)SUVやミニバンなどが増えたこと、エンターテインメントのためのAVモニターがヘッドレストに埋め込まれるようなインテリジェント技術が進んできたこと、なども穴あきヘッドレストが減った要因です。
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自分がどれだけ注意をしていても、事故に巻き込まれることは避けられません。緊急自動ブレーキのような安全運転支援技術とともに、最悪の場合も乗員を守るアクティブヘッドレストのような安全保護技術の組み合わせで、今後さらに受傷者が減っていくことを期待したいです。
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