中国で壮絶なクルマの値下げ競争が起きている。その中心にいるのがご存じBYD。なんと160万円というプラグイン・ハイブリッドを売り出して、ライバルを潰しにかかる作戦だ!
文/ベストカーWeb編集部、写真/BYD Auto
■生き残り競争に入った中国の自動車産業
中国の自動車産業は、歴史的にいくつかのステップを踏んできた。海外資本の力を借りたトラック生産に始まり、海外メーカーとの合弁会社の設立、そこで技術を蓄積して自国企業を育て、世界的な脱炭素の流れに乗って一挙に電動化を進めるという流れだ。
最近、そのステップが新しいフェーズに入ったように感じる。育った自動車メーカーをふるいにかけ、日本でいうトヨタ、日産、ホンダのようなトップメーカーを生み出そうという生き残り競争が始まったのだ。その競争のトップを走っているのが、ご存じBYDである。
BYDは1995年、電池生産を祖業として深圳で生まれた会社だが、電動化が進む自動車産業の中でこの「生い立ち」が効果を発揮している。EVの金食い虫ともいえる電池を内製できるため、圧倒的に安くEVやハイブリッドが作れるのだ。
前述した「生き残り競争」の中でBYDが強みとするのも価格だ。中国ではNEV(新エネルギー車)に関する補助金が2022年末で終了し、以来EVの伸びが鈍化したりしているのだが、BYDは度重なる値下げで売り上げを伸ばしている。なかでもすさまじいのが、プラグイン・ハイブリッド車だ。
■4.7m級の4ドアクーペがなんと159万円!
BYDは中国市場に「王朝シリーズ」と「海洋シリーズ」という2つの普及価格帯ラインナップを持っている。2月中旬、BYDはそのうちの王朝に属する「秦PLUS」をマイナーチェンジし、プラグイン・ハイブリッドに新たなエントリーモデルを設けた。
全長4.7m級の4ドアクーペのボディに、1.5Lエンジンと132kWのモーターを組み合わせたプラグイン・ハイブリッドなのだが、その価格に驚く。なんと7万9800元。1元20円とすると159万6000円なのだ。
この価格はもはやプラグイン・ハイブリッドを通り越して純ガソリン車よりも安い。たとえば中国のベストセラー車である日産シルフィは、1.6Lガソリンの最廉価モデルが11万9000元(およそ238万円)だ。
BYDは2月下旬、海洋シリーズの4ドアセダン「海豹」のプラグイン・ハイブリッドもおよそ34万円値下げした。秦よりも豪華装備なため値段も14万9800元と高めだが、それでもおよそ300万円という価格は、並のライバルを相手にしない圧倒的なコストパフォーマンスである。
こうした値下げを通じて、BYDはいまだに主流であるガソリン車ユーザーを電動車市場に引き込もうとしていることはもちろんだが、それ以上にライバル他社を値下げ競争に巻き込み、利益率を下げて体力を奪う作戦に出ているように思える。
そのターゲットには中国メーカーはもちろん、テスラや日本メーカーも含まれており、このまま続けば各社の中国戦略にも影響を及ぼす可能性が高い。
「電比油低(電気はガソリンよりも安い)」。BYDが盛んにアピールしているコピーだが、値下げ競争に勝ったBYDは、はたして中国のトヨタになるのだろうか?
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