どの自動車メーカーにも、世間で話題になったクルマが、絶版となってしまった例は多くある。日産も例外ではなく、1990年代から2000年代にかけて、名車と迷車が何台も絶版となってきた。今回は、そうしたクルマ達に目を向け、その絶版理由と、復活の可能性について、元メーカー開発エンジニアの筆者が考察する。
文:吉川賢一 写真:NISSAN
■ラルゴ(初代1982~、2代目1986~、3代目1993~1999年)
ラルゴは、元々はバネット(C120型)の上級版、「バネットラルゴ」として1982年にデビューしたクルマだ。この「ラルゴ」とは音楽の速度記号のひとつであり、イタリア語で「幅広くゆるやかに」を意味する。豪華な内装や快適装備を備えた、高級ワンボックスカーにふさわしい名前として命名されたそうだ。
3代目になり、車名から「バネット」が外れて「ラルゴ」となり、5ナンバーサイズのセレナ(C23型)の高級版として、3ナンバーサイズの大きな車体を与えられ、パワフルなエンジンと快適な装備を持っていた。
さらに、エアロパーツをとりつけた、「ハイウェイスター」がヒットし、20代~30代の若い層の支持も得ることに成功した。しかし、90年代末の日産の倒産危機の際に、コスト削減の一環として行われたラインアップ縮小の煽りを受け、1999年に販売終了。ハイウェイスターのグレード名ごと、「セレナ」と「エルグランド」にその座を明け渡すことになった。
【復活の可能性は?】
今後、「ラルゴ」名の復活の可能性は低いだろうが、アルファード&ヴェルファイアに対抗できる、「超上級ミニバン」は、日産としても何か方策を必死に考えているであろう。
■ラシーン(1994~2000年)
1993年の東京モーターショーに出品されたコンセプトカーが絶賛され、その流れを受けて市販化が決定したラシーン。「Be-1」や「フィガロ」といったパイクカーのテイストを含んだ、どこかレトロなデザインのクルマだ。
絶版から20年目を迎えるが、2019年の現在でも中古車市場にはラシーン専門店があるという。購入されるお客様は、このラシーンの持つシンプルなキャンバス感を「オシャレ」として、ライフスタイルに落とし込んでいるようで、シンプルにスチールホイールで乗るのが流行りだという。
クルマに傷がついて錆が出たとしても、返ってその緩さが「カッコよく」見えるのは不思議だ。このように、時間がたつほどに味が出る日本車は、珍しい。
【復活の可能性は?】
復活の可能性は低いだろう。なぜなら、「自動車メーカーが生み出す最新のクルマよりも過去のクルマが売れる」、という可能性を認めることになるからだ。自動車メーカーは、「新車」を買ってもらわなければ、ビジネスが成り立たない。
しかし筆者は、そのすべての新車が、「最新のクルマ」でなくてもいいのでは、と考える。必要な安全基準を満たし、ある程度の先進安全装備を備え、このままの姿で、ラシーンを復活させていただきたいと、個人的にも願う。
■ラフェスタ(2004年~2018年)
全幅1695mmのぎりぎり1700mmを超えない車幅、左右の視界が良い大きなガラスエリア、そして乗り降りしやすい小振りなシート、子供が乗りやすい低めの2列目フロア、明るいパノラミックルーフなど、「ママの声を全部入れした、究極の便利クルマ」がこのラフェスタだ。
実際に、その走りや乗り心地、ロードノイズも少なく、また2.0リットルのガソリンエンジン(137ps、20.4kgm)の動力性能も十分以上で、実に乗りやすいクルマだった。
しかし、当時の競合車だったストリームやウィッシュに比べ、外観がイマイチすぎて人気は出ず、また、パパの未練を表したかのような「パドルシフト」が用意されるなど、チグハグなコンセプトも不評だった。なお2代目ラフェスタはマツダ・プレマシーのOEMであり、スタイリッシュなボディを得たが、ロールーフミニバン市場の衰退によって、2018年3月にカタログから消えてしまった。
【復活の可能性は?】
ない。主力車種「セレナ」に対する特徴が、「背が低い」こと程度では、だれも見向きもしないでしょう。
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