ポルシェを代表するモデルといえば、911シリーズ。しかしながら、その価格は気軽に手出しできるものではない。
いっぽうで昨年日本での販売が始まった718ケイマンは、911に対してコストパフォーマンスのよさが光る。911か、718ケイマンか?
悩ましい選択を検証する。
文:渡辺敏史
ベストカー2016年10月10日号
911あってこそのポルシェブランド
718ケイマンと911カレラは、価格差にして2倍ほどの明確な差異が設けられているにもかかわらず、シリーズとしてアーキテクチャーの4割ほどは共用化されている。
ともにリア側にエンジンを積む同士ゆえ、運転席中央側から後ろは別物なれど、そこから前方は同じということだ。
リアサスペンションの形式は911がマルチリンク、ボクスター&ケイマンがストラットとこちらも異なるが、フロントは同じストラット。前にあるトランクの容量までが一緒だったりする。
そういう表層的なスペックを追えば追うほど際立つのは911の値段の高さ、もしくはボクスター&ケイマンのお値打ち感だ。同じフラット6を積む、言ってみれば設計折半のクルマとしてみれば後者はあからさまにお買い得。
そして動的にみても日本中のメーカーが現実的価格帯にあるスポーツカーのベンチマークとして解析しまくる理想像。これじゃあ911の立つ瀬なし。そういうオチに結びつくのも無理はないかとも思う。
とはいえポルシェは911ありきの会社。カイエンだ、マカンだ、パナメーラだ、と稼ぎ頭が諸手で受け入れられるのも911という現人神あってのこと。
その地位が揺らぐとあらばポルシェというブランドの屋台骨も揺らいでしまう。
パワーアップとCO2削減を両立すべく主要エンジンが軒並みターボ化されるなか、今回ボクスター&ケイマンを4気筒化した背景には911との質感差を物理的に広げて価格差の均衡を是正するという目的もあったのだろう。
しかし、それによって718ケイマンは300psという強力なパワーを得た。それ以上に実走行で効いてくるのは2000rpm以下で最大値に到達する38.7kgmという分厚いトルク。
0-100km/hで5秒を切る加速性能はもとより、低中回転域の押し出しの強さは前期型の6気筒モデルとは大きく異なる。こと速さという点に関してはさすがに911カレラ並みとはいわずとも進化の幅は著しい。
そして、実用面からみれば718ケイマンの能力は一点を除いて911カレラに肉薄、もしくは凌ぐところもあるほど。
日常的な速度域での乗り心地はほぼイーブン、そして荒天など悪環境での前輪側荷重がもたらす心理的な安心感、最大の長所である積載力や荷室の使い勝手などは718ケイマンの側に利があるとしていいだろう。
対して、911カレラの実用面における絶対的長所は、荷室兼用として4人乗りのスペースを車内に有していること。この点は室内に荷物置きのない2シーターの718ケイマンとは比べるべくもない。
つまるところ、速さと使い勝手をコストパフォーマンス的に評すれば、718ケイマンの優位は明らかだ。
逆に言えば、911カレラはフラット6ならではの伸びやかな加速やサウンド、RRならではの瞬発力、開口部の小さいリア回りの剛結ぶりから操作系も含めた車体全体へと及ぶ剛性感など、フィーリング面において718ケイマンに対し、今まで以上の優位を築くに至った。
なんとも違うポルシェ伝統の味わいを回り道することなくいただきたいというなら、911カレラをおいてほかの選択肢は考えられないだろう。
718ケイマン | 911 | |
エンジンフィール | 8点 | 10点 |
パワー感 | 9点 | 10点 |
ハンドリング | 10点 | 10点 |
シャシー | 10点 | 9点 |
乗り心地 | 9点 | 9点 |
ファントゥドライブ感 | 9点 | 9点 |
合計得点 | 55点 | 57点 |
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