巨星堕つ…日本自動車ジャーナリズムの創成期を築いた三本和彦氏追悼記

巨星堕つ…日本自動車ジャーナリズムの創成期を築いた三本和彦氏追悼記

 2022年7月16日、日本における自動車ジャーナリズムの黎明期に先頭を歩み、その礎を築き上げた偉大なる功労者、大先輩の三本和彦氏が天国へと旅立たれた。享年91。氏の足跡とベストカーが知る氏の姿をここにお伝えしたい。

※本稿は2022年8月のものです
文/ベストカー編集部、写真/ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2022年9月10日号

【画像ギャラリー】その眼差しは常に「使う人の立場に立って」。三本さんの歩んだ道のりをギャラリーで辿る(10枚)画像ギャラリー

■三本さんはまさに、日本のモータリゼーション進化の歴史の証人だった

 三本さんが自動車業界に与えた影響はあまりにも多大で、特にTVK(テレビ神奈川)で1977年から2005年まで28年間にわたって放送された「新車情報」での歯に衣着せぬ評論は、自動車メーカー関係者に大きな影響を与えたが、ご本人に言わせれば「ボクはね、自動車ジャーナリストではないんです。あくまでも“ジャーナリスト”。使う人の立場に立って物を見れば、当然気になるところや改良すべき点は指摘することになる」ということになる。

 ベストカーでも古くからお付き合いをいただいていたが、特に2010年代に入ってからは、80歳代という年齢にもかかわらず、精力的にベストカーの取材にお付き合いをいただき、クルマそのものに対する批評はもちろんのこと、自動車業界に対する提言や、さらには経済、産業界に対する、幅広い視点での提言をいただいた。

本誌でも舌鋒鋭く、自動車業界に活を入れた三本さん
本誌でも舌鋒鋭く、自動車業界に活を入れた三本さん

 三本さんとの取材はいつも時間が大幅に押した。ご本人は「忙しいから1時間だけしか時間が取れない」などと言うのだが、お伺いしてお話を伺っていると、本題もそこそこに、あらぬ方向に話が広がり、気が付けばあっという間に2時間、3時間と時間が経過しているのだ。

 肝心の話に軌道修正をするのだが、その脱線した余談がまた、三本さんとのお話の楽しみでもあった。

 誌面には書けないような、三本さんの長年のジャーナリスト人生ならではの秘話、裏話などもたくさん伺うことができたのが楽しかった思い出だ。

■自動車との出会い、盟友 故・小林彰太郎氏との出会い

 三本和彦氏は1931年(昭和6年)12月22日生まれとされているが、ご本人の弁によれば、戦火で戸籍原本が散逸し、戦後父親が書き間違えて1年若くなってしまった、という。つまりご本人の認識では1930年生まれだということになる。

 生まれは東京の品川で、土木建築業を家業とした父親が自動車を購入したことで、初めて自動車に接することになった。戦後16歳で小型車免許を取得し、高校生の頃には時折ハンドルを握ることもあったという。

 高校卒業後は國學院大學に進み、卒業後は上智大学で1年間語学を勉強。さらに東京写真短期大学(現在の東京工芸大学)に学士入学をして写真を本格的に学んだ。

 これがのちに東京新聞時代のフォトジャーナリストへとつながるのだが、何よりもこの学生時代に経験した数々のアルバイトのなかで後々盟友となる小林彰太郎氏との出会いが三本さんの大きな転機となったことは間違いない。アメリカ大使館で外交官を相手に日本語を教える、というアルバイトであった。

 小林彰太郎氏とは言うまでもなく、「カーグラフィック」誌を創刊した、あの小林彰太郎氏で、まだまだマイカーなどという概念もなかった時代の日本に、欧米のような自動車ジャーナリズムをいち早く取り入れようとしていた。

 マイカーを手に入れるためにアルバイトをしていた小林氏に対し、三本さんは「スピードグラフィック」というアメリカ製のカメラが欲しくてアルバイトをしていた。報道カメラマンを目指していたのだ。

この写真は1968年、東京新聞社を退社したあとのもの。「中南米大陸都市環境調査遠征隊」に参加した三本和彦氏(左から三人目)。向かって右隣りが小林彰太郎氏だ
この写真は1968年、東京新聞社を退社したあとのもの。「中南米大陸都市環境調査遠征隊」に参加した三本和彦氏(左から三人目)。向かって右隣りが小林彰太郎氏だ

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