実用域で粘り強いトルクを発揮する「クロスプレーン・コンセプト」に基づいて開発されたヤマハ製水冷DOHC4バルブ直列2気筒エンジンは、ロードスポーツ「MT-07」を皮切りに、スポーツヘリテージ「XSR700」、アドベンチャーモデル「テネレ700」、クロスオーバー「トレーサー7(海外モデル)」、スーパースポーツ「YZF-R7」と、ジャンルを超えて多くのモデルに搭載されている。クロスプレーン・コンセプト2気筒にちなんで「CP2」とも呼ばれるこのエンジンは、ヤマハのミドルクラスを担うだけでなく、現在の2気筒エンジンの指標ともいえる完成度となっている。
軽さを追求しコンパクトに設計
2014年に登場したMT-07は、より厳格化された排出ガス・騒音規制に対応して開発され、エンジンも新設計された。「扱いやすさだけでは走りがつまらなくなるので、楽しさを感じられる要素を織り込む」ことをコンセプトに、どの回転域でもスロットルを開閉しやすい扱いやすさとリニアな加速の両立を目指したという。直列2気筒レイアウトは、環境性能、スポーツ性能、利便性など、様々な要件が求められる中で決定されたと推測されるが、そうして開発されたCP2を大きく特徴付けているのが270度クランクだ。
T-MAX530が採用している360度クランクは、左右のピストンが同時に上下運動する等間隔燃焼で、低回転から安定したトルクが出る半面、振動が大きくなりがちで高回転まで回りにくい一面がある。また、YZF-R25が採用している180度クランクは、左右のピストンが反対に位置して互いの振動を打ち消すが、左右別々に上下運動することでエンジンが揺り回る偶力振動が出やすい。燃焼タイミングが極端で、低速時のトルクが落ち込みやすい面もある。
そこで採用されたのが270度クランクだ。まさに180度クランクと360度クランクを足して2で割ったような特性で、180度クランクほど燃焼間隔が極端にならず、360度クランクよりもスムーズな回転上昇を実現している。ただし、360度クランクほどではないが振動は発生する。
じつはヤマハは、1995年に市販車初となる270度クランクを採用した「TRX850」、「TDM850」を発売している。この2気筒エンジンは振動を低減するために二軸バランサーを装備していたが、CP2は一軸バランサーを採用。解析技術の進歩もあり、振動は出るものの心地よさが感じられるように計算されているのだ。また、一軸バランサーを採用したのは、エンジンのコンパクト化と軽量化も図っている。
CP2のクランクケースはダイキャスト製法で薄肉成型することで軽量化しつつ、クランクシャフト、バランスシャフト、トランスミッションを支持する強度も確保。また、ウォーターポンプとオイルポンプを同軸にすることでコンパクト化と軽量化を両立。アッパークランクケースはシリンダーと一体化して軽量化している。さらに、エンジン始動時の圧縮を減らすデコンプ機能を内蔵することでスターターモーターとバッテリーも小型化し、徹底した軽量化で車体バランスを向上している。270度クランクで左右のピストンが上下運動するタイミングをズラすことで不要な慣性トルクを打ち消す特性と軽い車体が相まって、低回転域で扱いやすく中高回転域までリニアな加速を実現しているのだ。
CP2を搭載したXSR700の足着き性をチェック
低速トルクが太く、市街地で乗りやすい
XSR700の車重は188kgと600cc~800ccのミドルクラスとしては軽く、車体のスリムさもあって足着き性も良好。ハンドル幅は740mmと広めだが、ハンドル切れ角も大きく旋回性は良好で、市街地での取りまわしもしやすい。このハンドルバーに上半身を合わせると、アップライトでリラックスした姿勢が取りやすく、目線も高い位置となって見晴らしもいい。
CP2は低回転でのトルクが太く、発進や渋滞時にもエンストの不安を感じない。スロットル操作に対するレスポンスもよく、3000rpm程度でも充分な加速力を発揮する。そして、その回転域をキープしていてもCP2からは不快な振動がなく、車体の安定性も増してきて余裕を持って交通の流れに乗って走行していける。軽快な取りまわしと安定したマシン挙動の両立は乗りやすさにもなっていて、幅広いライダー層が扱いやすさを感じられるはずだ。
中高回転は走りが一変! スポーティな乗り味が楽しめる!
3000rpmで5~6速にシフトアップしていても、スロットルを開ければ車体はスッと加速する。
このエンジン回転域ではリラックスしたクルージングが楽しめ、日常の移動の足としてもツーリングの相棒としても快適さが感じられる。
その半面、各ギヤで4000rpm以上に回すと、XSR700の走りは俄然スポーティになる。CP2は2気筒らしい小気味いい排気音とともに鼓動感が増してきて、スロットル操作に対して瞬時に蹴り出されるような加速力を発揮する。軽い車体の恩恵もあり、スロットルの開閉だけで軽快なマシンコントロールを楽しむことができるのだ。低回転域での扱いやすさと中高回転域でのスポーティさを両立したこの特性が、クロスプレーン・コンセプトの特徴だと実感できた。
その一方、筆者はかつてTRX850を所有していたので、XSR700の中高回転の排気音の盛り上がりに少し物足りなさを感じることもあった。しかし、TRX850が新車販売されていた当時と現在では、排ガスや騒音などの規制値は比較にならないほど厳しくなっている。そうした規制に適合し、さらに環境性能をクリアしつつ、当時を彷彿させるスポーツライディングの楽しさ実現しているCP2に感心したのも事実だ。CP2が登場して以降、ミドルクラス2気筒エンジンが270度クランクを採用することが増えたが、これはCP2のトータルでの完成度の高さをライバルメーカーが認めていることの何よりの証左と言えるだろう。ミドルクラスで扱いやすさだけでなく、乗る楽しさも同時に得たいなら、CP2搭載モデルがおすすめだ。
【2023年型ヤマハXSR700主要諸元】
・全長×全幅×全高:2075×820×1130mm
・ホイールベース:1405mm
・車重:188kg
・エンジン:水冷4ストロークDOHC4バルブ直列2気筒688cc
・最高出力:54kW(73PS)/8750rpm
・最大トルク:67N・m(6.8kgf・m)/6500rpm
・燃料タンク容量:13L
・変速機:6速リターン
・ブレーキ:F=ダブルディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=120/70-17、R=180/55-17
・価格:100万1000円
詳細はこちらのリンクよりご覧ください。
https://news.webike.net/motorcycle/438789/
ツインエンジンの新基準!「270度クランク」人気に火をつけたヤマハ「CP2」【画像ギャラリー】
https://news.webike.net/gallery2/?gallery_id=438789&slide=1












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