2025年4月現在、量産されるBEVをひとつもラインナップしていないスズキ。しかし、軽自動車や小型車のみをラインナップし、その軽量さと低燃費で環境性能を維持している。そんなスズキが計画する未来へ向けての強気な作戦とは!?
※本稿は2025年4月のものです
文:渡辺陽一郎/写真:スズキ
初出:『ベストカー』2025年5月10日号
軽量化と低燃費化で環境性能を向上
2024年の国内メーカー販売ランキングを見ると、1位がトヨタ、2位はスズキだった。1990年頃のスズキは5位だったが、2000年代から2010年代にかけて、日産やホンダを抜いた。2020〜2024年は5年連続してスズキが2位だ。
スズキが好調な理由は、2024年に新車販売台数の35%を占めた軽自動車を手堅く売りながら、ソリオやスイフトなどの小型車にも力を入れるからだ。今ではスズキが国内で扱う新車の約20%が小型車だから、軽自動車からの乗り換えも含めて、幅広い顧客に対応している。
その一方で今のスズキには、マイルドハイブリッドは多いが、ストロングハイブリッドはOEMを除くと用意されない。電気自動車は量産したこともない。
そのためにスズキは、環境対応が遅れているように見えるが、前述のとおり販売する車種は軽自動車と小型車だ。小さくて軽く、二酸化炭素の排出量が少ない低燃費車ばかり扱いながら、国内で2位の売れゆきを誇る。
特に最近のスズキは軽量化に力が入り、例えば軽自動車のスペーシアで売れ筋のマイルドハイブリッドXは、車両重量を880kgに抑えた。全高が1700mmを超えるスライドドアを装着するライバル車に比べて40〜70kgほど軽い。
そのためにスペーシアXのWLTCモード燃費は23.9km/Lに達して、ライバル車のなかで最も優れている。
スズキのデータによると、日本における乗用車の平均車両重量は1261kgだが、スズキの平均は892kgだ。スズキはストロングハイブリッドや電気自動車を設定しないが、軽量化と低燃費化に力を入れて、環境性能で他社に対抗している。スズキの二酸化炭素排出抑制に対する貢献度は高い。
そしてボディが小さくて軽ければ、製造に必要な原材料、車両を輸送したり廃棄する時のエネルギーも少ない。衝突時に生じるエネルギーも抑えられる。設計の仕方によっては価格も安くなる。スズキの小さくて軽いクルマ造りは、二酸化炭素の排出抑制以外にも、さまざまなメリットを生み出している。
「小・少・軽・短・美」で日本のリーダーになる
スズキは「小・少・軽・短・美」を行動理念に掲げる。小さく、少なく、軽いことは、今のすべての産業に求められる本質的な考え方だ。スズキの国内メーカー販売ランキングが、以前の5位から2位に浮上したことも、その結果と考えられる。
「小・少・軽・短・美」に象徴されるスズキの商品は、好景気の時代にはあまり評価されなかったが、今は注目されている。時代が変わり、スズキが進歩的なメーカーに位置付けられるようになった。
ただし将来的には、電動化への本格的な取り組みが不可欠だ。小さくて軽いスズキ車が二酸化炭素の排出抑制に適することは確かだが、環境性能はさらに向上させねばならない。
安全と環境に「これで充分」はない。電気自動車に対するスズキの取り組みは未知数だが、2025年度にはダイハツやトヨタと共同開発した軽商用バンと、コンパクトSUVのeビターラを国内へ投入する。さらに2030年度までに6車種の電気自動車を発売するとしている。
軽自動車は薄利多売の商品だから、電気自動車とする場合にも、価格の安さが求められる。今後、補助金が消滅しても電気自動車を堅調に売るには、サクラXより50万円ほど安い200万円前後に抑えねばならない。
そうなるとパワーユニットやバッテリーを複数の軽自動車メーカーで共通化してコストを抑え、そのうえで各社が個性的な商品開発を行う必要が生じる。
この時にリーダーシップを発揮するのがスズキだ。現時点では「小・少・軽・短・美」はスズキの行動理念だが、将来は日本のすべてのメーカーで共有され、軽自動車や小型車サイズの電気自動車を求めやすい価格で販売する。
いよいよスズキが日本のクルマ造りのリーダーになり、共通化を進める時代が訪れる。その中核にあるのは、今も昔も変わらない、日本の庶民に寄り添うスズキの優しさだ。


























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