サスペンションのダンパーが乗り心地や操安性能に大きく関わることはクルマ好きの皆様ならばご存知の通りだが、そこはコストとのせめぎ合い。KYBが開発した作動油「サステナルブ」は、技術のブレークスルーともいえる“魔法の油”だ!!
※本稿は2025年10月のものです
文:鈴木直也/写真:KYB、ベストカー編集部
初出:『ベストカー』2025年11月26日号
奥深いダンパーのお話の……さらに奥!
ダンパー(ショックアブソーバー)がクルマの乗り味を大きく左右するってことは、クルマ好きにはよく知られた事実だが、ダンパーは意外なほど奥が深く、専門家でも知らないことがたくさんある。
今回お伝えしたいテーマはなんとダンパーの中に封入されている作動油、つまりオイルのお話だ。
世界的なダンパーサプライヤーの大手であるKYBが新たに開発した“サステナルブ”というダンパー用オイルについて、なかなか興味深いテストを体験した。
KYBによると、石油メーカーに委託して作動油を調達していた時代を経て、2018年頃から自社レシピによる“プロスムース”を開発。さらに、2020年代以降はオイルの摩擦特性に着目した新発想の作動油や、天然由来合成油採用による走りと環境の両立など、近年ダンパー作動油は大きく進化してきているという。
ダンパーピストンの微小振動領域の動きに着目
そのなかで、今回最も注目されるのは、オイルが持っている摩擦特性をコントロールする技術だ。
ダンパーの作動原理はオイルの粘性に由来する流路抵抗で、その基本的な部分は変わらない。しかし、当たり前のことながら、粘性による抵抗はピストンが動かないと発生しない。
実際のクルマでダンパーがどのように作動しているのかを計測してみると、例えば良路60km/hではストローク量2mm以下で毎秒6回くらい振動している。想像以上に細かく動いていると言っていい。
ところが、これをストローク量ではなくダンパーのピストンサイクルで観察してみると、なんと毎秒43回も加速/停止を繰り返す(圧縮方向が入れ替わる)動きをしている。
つまり、ピストンがストロークしないと減衰力が生まれないのに、それが毎秒43回も停止しているわけで、この領域でダンパーに「仕事」をさせようと思ったら、オイルの摩擦抵抗(フリクション)を活用しなければならない、そういう結論になるわけだ。
というわけで、論より証拠。従来品の“プロスムース”装着車と、そのオイルだけを“サステナルブ”に入れ替えた試乗車(ヤリスHV)を用意し、一般公道を中心に比較試乗を行った。
ホントに作動油を変えただけなのか?
その感想だが、ひとことで言ってビックリとしか表現のしようがございません。
「オマエそりゃ大げさだろ」と笑われるのを承知で申し上げれば、標準のBMW3シリーズからアルピナB3に乗り換えた時のアノ感覚が、ヤリスのような普及価格帯のクルマからほんのり感じられるのですよ!
注意深く比較すると、ザラザラした路面では細かい振動を上手に平滑化して“サステナルブ”が圧勝するのだが、段差の大きなゼブラ路面になると今度はサスペンションのラバーブッシュに起因するブルブル感がノーマルより大きめに出るなど、必ずしも「完全勝利」とまではいかない。
しかし、同じルートを走っているのに「さっきと全然違うよね?」という体験の連続。これには同乗した編集ウメキくんとともに「狐に化かされたみたいですね」と感嘆の連続でした。
ダンパーオイルを変えるだけでこんな効果が体感できるなら、自分のクルマで是非試したい。マジでそう思った試乗会でした。











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