ノア/ヴォクシーなどは好調なのに…改良後も伸び悩むステップワゴンの苦悩

ノア/ヴォクシーなどは好調なのに…改良後も伸び悩むステップワゴンの苦悩

 2020年3月の販売台数で、トヨタ「ヴォクシー」 8963台+「ノア」5649台、日産「セレナ(e-POWER含む)」9130台と好調だったが、ホンダ「ステップワゴン」は4382台と伸び悩んでいる。

 ステップワゴンは、2020年1月には売りであった「わくわくゲート」をなくしたグレードを追加し、新型フィットで人気の「e:HEV」も設定されたのにだ。

 ホンダは、トヨタや日産といったライバル比べて販売力も弱いわけではない。にもかかわらず、販売が伸び悩んでいるのはナゼか? ステップワゴンの苦悩の理由を、自動車評論家の渡辺陽一郎氏が考察する。

文/渡辺陽一郎
写真/HONDA、編集部

【画像ギャラリー】どうしてこうなったのか? 苦悩を続ける現行型ステップワゴンの詳細を紹介


■一躍大ヒットモデルとなった初代 少し落ちたが堅調だった2代目

 ステップワゴンはミニバンの主力車種だ。1996年に発売された初代モデルは、全高が1800mmを超えるミニバンでは、最初の前輪駆動車だった。後輪駆動を採用する当時の日産「セレナ」やトヨタ「タウンエースノア&ライトエースノア」に比べると、床が大幅に低い。低床設計の先駆けで、乗降性、居住性、低重心によって走行安定性も優れ、一躍人気車になった。

 そのために発売した翌年の1997年には、1カ月平均で9158台を登録している。2019年度(2019年4月から2020年3月)に、ミニバンで最も多く売れたトヨタ「シエンタ」の月販平均が9006台だから、当時のステップワゴンはこれを上まわった。

1996年に登場した初代ステップワゴン。クリエイティブムーバーの第3弾として登場し、大ヒットモデルに成長した

 従ってステップワゴンは、ミニバンという当時の新しいカテゴリーを広める役割も果たしている。その人気はセレナやタウンエースノアなどにも波及して、ミニバン市場全体を活性化させた。

 2001年に発売された2代目も好調に売れたが、2002年の登録台数は1カ月平均で5927台だ。9000台を超えた初代の勢いはない。2001年にホンダは「初代フィット」を発売して、2002年には1カ月平均で2万899台が登録されて国内販売の1位になった。

2代目ステップワゴン。好調な販売だったが、2代目のジンクスか? 初代ほどの勢いはなかった

 また2001年には、フィットと同じプラットフォームを使うコンパクトミニバンの「モビリオ」も投入している。燃料タンクを前席の下に搭載して空間効率を高め、3列目シートに座っても膝も持ち上がる窮屈な姿勢にならない。モビリオは2002年に、1カ月平均でステップワゴンよりも少し多い6020台を登録した。これらの新型車に販売力とユーザーを奪われ、ステップワゴンは売れ行きを下げた。

■消費者の求めるものを捉え損ねて迷走するステップワゴン

 2005年にはステップワゴンは3代目にフルモデルチェンジされ、プラットフォームも刷新した。床の位置が60mm下がり、サイドステップ(小さな階段)を介さずに乗り降り可能になった。子供や高齢者に、さらに優しいミニバンとなっている。床を真っ平らに仕上げたことも特徴で、車内を移動しやすい。デコボコがあると不自然に見えてしまうフローリング調フロアも用意した。

3代目ステップワゴン。走りのよさなどを前面に打ち出して登場。それまでのスクエアなエクステリアデザインから一線を画す、つり目ヘッドライト&大型グリルへと変更された
3代目ステップワゴン。走りのよさなどを前面に打ち出して登場。それまでのスクエアなエクステリアデザインから一線を画す、つり目ヘッドライト&大型グリルへと変更された

 そして低床設計を生かし、全高は2代目に比べて75mm低い1770mmとした。床を下げたことで、室内高の1350mmを保ちながら、全高は1800mmを下まわった。この変更により、重心も40mm下がったから走行安定性が大幅に向上して、ボディが左右に振られにくいために快適性も高まった。ドライバーの視線の高さが最適化され、死角が減り、安全性と運転のしやすさにもメリットを与えている。

 このように3代目は機能を幅広く向上させたが、売れ行きは伸び悩んだ。一番の敗因は、メリットとされる1800mm以下の全高と、フロントマスクなどのデザインによってボディが低く見えたからだ。

 車両を合理的に捉えると、必要な室内高と最低地上高が確保されれば、天井は低いほど良い。安全性に直結する走行安定性を筆頭に、たくさんのメリットを生み出すからだ。3代目ステップワゴンは、これらの特徴を外観でも表現しており、整合性の取れたクルマ造りを行った。

 ところがユーザーは、そのようには受け取ってくれない。ミニバンの外観に求められるのは、車内が広そうに見えて、存在感も強く、価格も高そうに感じられることだ。ミニバンは幸せな家庭の象徴で、子供に優しいファーストカーだから、背が高くフロントマスクも豪華で、立派に見えなければならない。そのためにエアロパーツを装着するスパーダなどが人気を高めたのだ。

 ちなみにトヨタ「アルファード&ヴェルファイア」は、現行型でプラットフォームを刷新したから床と天井を下げることも可能だったが、あえて高く保った。立派な外観と乗員の見晴らし感覚を優先させたからだ。低床設計が生み出すメリットを追求しなかったから、正しいクルマ造りといえない面もあるが、多くのユーザーから歓迎されて商業的にも成功を収めた。

 この流れに迎合せず、理想のクルマ造りを追い求めるのがホンダらしさでもあるが、前述の通り売れ行きは伸び悩んだ。発売した翌年の2006年には乗り替え需要もあって1カ月平均6518台を登録したが、2007年には4650台、2009年には3585台と下がった。2007年にはフィットが2代目にフルモデルチェンジされ、2009年には2代目インサイトがハイブリッド車としては低価格で登場している。これらの新型車もステップワゴンの販売力を低下させた。

 2009年に発売された4代目ステップワゴンは、3代目を反省して、全高を45mm高い1815mmとした。室内高も45mm増している。フロントマスクには存在感の強いメッキグリルを装着して、売れ筋路線の外観になった。2010年の登録台数は、1カ月平均で6745台に盛り返した。

 4代目はこのあとも堅調に売れたが、2015年に登場した5代目の現行型で、再び伸び悩む。外観に丸みを持たせ、エアロパーツを装着するスパーダも、メッキグリルの輝きを抑えた。地味にした理由を開発者に尋ねると「ほかのミニバンはフロントマスクが派手だから、ステップワゴンは個性を追求した」と返答された。

4代目ステップワゴン。3代目の反省を生かし、ライバルであるノア/ヴォクシーのような全高が高く、メッキグリルで存在感を強くしたデザインへと変更された
現行型ステップワゴン。わくわくゲートなど、飛び道具的なものまで盛り込んで登場した

 現行型は縦開きリヤゲートに、狭い場所でも開閉できて、乗り降りも可能な横開きのサブドアを内蔵させた。この「わくわくゲート」は注目の装備で、シートアレンジも改善している。衝突被害軽減ブレーキを含んだホンダセンシングも用意したが、登録台数はライバル車に比べて見劣りした。発売した翌年の2016年は、1カ月平均で4373台だ。新型車なのに、ヴォクシーの7656台、セレナの6125台に比べて少ない。

ホンダがステップワゴンに採用した「わくわくゲート」。狭い場所でも後部ドアを使える利点があるが、
ホンダがステップワゴンに採用した「わくわくゲート」。狭い場所でも後部ドアを使える利点があるが、

 そこで2017年にマイナーチェンジを実施して、スパーダはフロントマスクを存在感の強い形状に改めた。つまり4代目の派手な路線に戻した。2モーター方式のハイブリッドも加えたが、スパーダのみで標準ボディはほとんど変更されていない。

次ページは : ■悪循環に陥る販売状況 ホンダの戦略にも問題あり

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