現行スペーシアの自然吸気車は新世代のR06D型を搭載するが、スペーシアカスタム HYBRID XSターボだけは従来系のR06A型を継続している。古いエンジンの使い回しにも見えるが、設計値を比べると、低燃費と力強さをそれぞれ追求した明確な役割分担が浮かび上がる。
文/写真:ベストカーWeb編集部
【画像ギャラリー】アルファード級じゃん!! N-BOXにない装備が涙モノ(5枚)画像ギャラリーR06D型は自然吸気で燃費を稼ぐためのエンジン
現行スペーシア/スペーシアカスタムの自然吸気車に搭載されるのは、総排気量657ccのR06D型だ。最高出力は49ps、最大トルクは5.9kgm(58Nm)。一方、スペーシアカスタム HYBRID XSターボには、総排気量658ccのR06A型インタークーラーターボが搭載され、最高出力64ps、最大トルク10.0kgm(98Nm)を発生する。
排気量はほとんど同じだが、中身はかなり違う。R06D型のボア×ストロークは61.5×73.8mm。ピストンの上下動が長いロングストローク設計で、圧縮比も12.0と高い。吸気側と排気側の両方に可変バルブタイミング機構を備え、自然吸気のまま燃料のエネルギーを効率よく取り出すことを重視している。
対するR06A型ターボは64.0×68.2mmで、R06D型ほどストロークが長くない。圧縮比も9.1に抑えられている。ターボは吸入空気を圧縮してシリンダーへ送り込むため、燃焼時の圧力と温度が自然吸気エンジンより高くなる。そこで圧縮比を低めに設定し、異常燃焼であるノッキングや過大な熱負荷を避ける余裕を確保しているわけだ。
つまり、R06D型は「自然吸気で低燃費を突き詰める設計」、R06A型ターボは「過給して大きなトルクを受け止める設計」である。型式が違うのは新旧の問題というより、狙っている性能が異なるためだ。
R06D型へターボを付け替えない理由は「完成度」にある
では、新しいR06D型にターボを組み合わせれば、さらに高性能で低燃費なエンジンを造れるのではないか。
もちろん技術的に不可能という意味ではない。しかし、ターボ仕様の開発は過給器を追加するだけでは済まない。燃焼室やピストン、冷却系、潤滑系、排気系などを高い熱と圧力に耐えられるよう設計し直し、制御プログラムも作り込む必要がある。耐久試験や排出ガス、燃費の認証も必要で、実質的には新たなターボエンジンを一から開発するのに近い仕事となる。
その点、R06A型ターボは長年にわたってスズキの軽自動車に採用され、性能や耐久性、生産面のノウハウが蓄積されている。しかも軽自動車の最高出力として定着している64psへすでに到達し、最大トルクも自然吸気R06D型の58Nmに対して98Nmと約69%も大きい。新しい型式へ置き換えても、ユーザーが体感できる最高出力を大幅に増やせるわけではない。
背の高いスペーシアで重要なのは、むしろこのトルク差だ。R06D型が最大トルクを5000rpmで発生するのに対し、R06A型ターボは98Nmを3000rpmで発生する。乗員や荷物を載せた状態での発進、登坂路、高速道路への合流では、最高出力の15ps差以上に余裕の違いを感じやすい。
さらにXSターボはモーターも別仕様だ。自然吸気車用モーターの最大トルクが40Nmなのに対し、ターボ車用は50Nm。パワーモードを選ぶとエンジンとCVTの制御を変えるだけでなく、モーターのアシストトルクも増やす。単にR06A型を載せ続けているのではなく、エンジン、モーター、変速機を一体で力強い走りへ合わせ込んでいるのである。
WLTCモード燃費は、2WDのHYBRID XSが23.9km/L、HYBRID XSターボが21.9km/L。その差は2.0km/Lあるものの、約900kgのスーパーハイト軽で98Nmを得られる代償としては理解できる範囲だ。車両価格差も2WD同士で7万8100円に収まっている。
スズキはR06A型を残した詳しい判断過程までは公表していない。それでも両エンジンの設計と性能を見れば、結論は明快だ。R06D型はR06A型のすべてを置き換える後継機ではなく、自然吸気車の燃費を伸ばすための新世代エンジン。一方のR06A型ターボは、軽自動車に求められる最大級の出力とトルクを、実績ある構成で確実に提供できる完成品なのである。
XSターボがR06A型を積むのは、古いエンジンを仕方なく流用したからではない。新規開発のコストやリスクを負って型式をそろえるより、適材適所で完成度の高いエンジンを使うほうが合理的だからだ。エンジン型式の新しさと、クルマにとっての最適解は必ずしも同じではないのである。
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