2009年に豊田章男氏が社長に就任して以来、言い続けているテーマが「もっといいクルマづくり」だ。その成果が実際の車にようやく表われ始めたのが、プリウスに始まり、C-HR、新型クラウン、カローラスポーツなど新世代プラットフォームを採用した車たちだ。
トヨタが掲げる「もっといいクルマづくり」でトヨタ車は良くなっているのか? 新世代のトヨタ車からその成果や課題を探る。
文:鈴木直也/写真:編集部
“もっといいクルマづくり”は何を示す?
2009年に豊田章男氏が社長に就任して以来、言い続けているのが「もっといいクルマをつくろう!」というテーゼ。
この言葉の深いところは、具体的にどういう車が「もっといいクルマ」なのか、それについて章男社長はまったく言及していない点にある。
つまり、トヨタ車をどうやってもっと良くするか、それはそれぞれの車種を担当するエンジニアが考えなさい、というメッセージになっている。
「ではどうする?」と考えたとき、まず思いつくのは「そもそも、プラットフォームが良くならないと、いい車は出来ないよね」という原則だ。
そして、この新プラットフォーム概念が「多少のコスト増に目をつぶって手の込んだ車作りをやれば、一部の車好きからは評価してもらえるかもしれないが、それじゃコストが高騰する。仕事のやり方自体を変えていかないとダメだよね」という方向へ発展する。
これがTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)誕生の経緯だ。
TNGAは単なるプラットフォーム概念ではなく、車の企画/設計段階からもっと効率よく仕事ができるように新しい仕組みを考える、いわばものづくり革命。
エンジンやトランスミッションなどはもちろん、ADAS(先進運転支援システム)などの電子装備もその範疇に含まれる。
「これがカローラ?」トヨタ車を変えた新型カローラスポーツ
このTNGA構想に基づいた車が初めて商品化されたのは2015年の4代目プリウスだったが、特徴的な低重心パッケージや高剛性ボディとしなやかな脚のコンビネーションが高く評価された。
このプリウスから始まったCセグメント用TNGAシャシーは、通称「GA-Cプラットフォーム」と呼ばれ、続いてそれを採用したC-HR、そして最新のカローラスポーツまで、おしなべて走りの評価は高い。
とりわけ、最新のカローラのハンドリングと乗り心地のバランスは、失礼ながら「これがカローラ?」と驚くような水準に達している。
ゴルフなど欧州を代表するCセグのライバルに対して、初めて互角の土俵に立ったトヨタ車といっても過言ではないだろう。
賛否両論のプリウスに感じるトヨタの新しい車作り
もうひとつ、この一連の新しいCセグトヨタ車に共通するのが、デザインをすごく攻めていることだ。これまでのトヨタ車といえば、万人受けする無難なデザインが持ち味だったが、いまやそんな面影はどこにもない。
章男社長の発言に「バッターボックスに立ったら、とにかくバットを振ろう」という言葉がある。これは、いうまでもなく「新しいことにチャレンジしなさい」という意味だが、さらに深掘りすれば「フルスイングした結果の空振りは咎めない」という、経営者としての責任感を示したものでもある。
車を開発する立場のエンジニアにとって、これは挑戦し甲斐のある環境だ。現行プリウスを見て章男社長は「カッコ悪いな」と言ったそうだが、以前のトヨタだったらすかさず無難なB案デザインを見せて「ではコッチで行きます」になっただろう。
ベストセラー車にこれほど好き嫌いの分かれるデザインを採用したという事実だけみても、最近のトヨタが大きく変わりつつあるのは間違いない。
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