これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。
当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、1990年代に華々しく登場したトヨタのスペシャルティクーペ、セラについて紹介していこう。
文/フォッケウルフ、写真/トヨタ
■ショーカーそのままに市販化された超個性派コンパクト
1987年、晴海で行われていた第27回東京モーターショーのトヨタブースで、小型のスペシャルティカーのコンセプトモデルが披露された。
「AXV-II」と名乗ったそのクルマは、フロントからルーフ一体のドアガラスとし、リアハッチまでガラスで覆われたグラッシーキャビンのスタイルに、バタフライドアを装着した小型車のスーパーカーとして注目を集めた。好評を博したこのAXV-IIは、ほぼそのままの姿で「セラ」というネーミングで市場へ導入される。
セラが誕生した背景には、次世代のモータリーゼーションを担う若者層の心を捉えるモデルを新たに開発するというトヨタの取り組みである「ヤングプロジェクト」があり、実際に開発に携わったスタッフは、柔軟な発想をする若手が中心だったと言われている。
グラッシーなキャビンによって、乗り込むだけでフルオープンのような開放感が味わえることや、バタフライドアの採用などは、それまでのトヨタ車ではありえない試みだった。
まさにバブルの申し子。セラは、未曾有の好景気に浮かれた社会背景があったからこそ生まれたクルマと言っていい。しかし、モーターショーの雛壇に並ぶショーカーではなく、市販するとなればさまざまな制約が求められる。
たとえば、バタフライドアやボディ本体の剛性を確保したり、仮に事故を起こして転倒した際に乗員をどうやって守るか。さらにドア開閉時の操作性や悪天候時の対処といった日常的な用途における利便性など、自由な発想を具現化した裏には、開発陣の並々ならぬ研究の跡が垣間見られる。
大きなウインドシールドが連続曲面でつながるグラッシーなキャビンがもたらす開放感はオープンカーのそれに匹敵するものだった。外界と隔絶しているため一般的なオープンカーのように風を感じることはできないが、ルーフ部にまでまわりこんだバタフライドアとサイドガラス、大きな3次曲面のリアガラスを組み込んだパノラミックハッチによって、天候に左右されずに抜群の開放感が享受できた。
斬新なスタイルを眺め、クルマに乗り込むたびに、非日常や意外性が感じられるのは、セラを手にしたユーザーだけが手にできる価値だったと言えるだろう。
コメント
コメントの使い方セラのドアは『ガルウィング』(カモメの翼)ではなく、『バタフライ・ドア』と呼ばれる仕様です。ドアの開く方向や構造が、ガルウィングやカウンタックのシザーズ・ドア等とは異なるため、明確に別の種類と規定されていると聞いています。
現役オーナーです。
「こんなクルマよく売ったな!!」ってなんて見出しだい。
オーナーとしては「よくぞ売ってくれた!!」と思ってます😊
後にも先にもこんなワクワクさせてくれる夢のような車は無い。是非後継車を出してください!間違いなく買います。