東京都交通局では、水素社会の実現に向けて、現在、燃料電池バスを全国で最多の73両運行してるが、燃料電池バスにおけるラッピング広告の販売を開始する。燃料電池車であるトヨタのSORAにはこれまで広告ラッピングはしていなかったが、いよいよSORAにラッピング車が登場することになりそうだ。
文:古川智規(バスマガジン編集部)
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■SORAにラッピングが可能ってスゴイ!!
ラッピングバスは、バス車両全体にラッピングを施し、街中を周回する広告で、バスを待つ乗客のみならず街を行き交う多くの歩行者に対して高い宣伝効果が発揮できる。
交通局では二酸化炭素を一切排出しない燃料電池バスへのラッピング広告は、エシカル商品・商材のPRやSDGsに積極的に取り組む企業、団体のアピールにも最適だとする。
国産の燃料電池車SORAは、価格が高く多くの台数をそろえるのは難しいが、都営バスでは70台以上が走っていて、これまでSORA専用の塗色で音もなくバス停に滑り込む姿は都民にはもう見慣れた光景だ。
■ではここで理科のお勉強
燃料電池車は電力を用いてモーターを回すことでバスを動かす。電力の供給は架線からパンタグラフを通じて得るトロリーバスや大型のバッテリーを搭載してためてある電気から供給する電気バス(EVバス)がある。
どちらも一長一短だが、燃料電池車は理科の実験でやった水の電気分解の反対の化学反応を用いて自前で電力を得る。
電気分解は水に電流を流して水素と酸素に分解するが、逆に水素と酸素を反応させることにより電力を得ることができる。酸素は空気中にいくらでもあるのでわざわざ積む必要はないが、水素はそうはいかず自前で持たなければならない。
つまりこの水素が燃料になるわけだ。バスはデカいので大きなタンクを乗せることができるのも有利に働く。
高圧タンクに充填した水素と空気中の酸素を反応させて電力を得て、それでモーターを回すのでEVのように充電の必要はないが、水素ステーションで水素の充填が必要だ。こうして燃料電池車はいわばバスがミニ発電所として機能する。
そして軽油を爆発させる内燃機関(ディーゼルエンジン)ではないので排気ガスは出ない。出るのは水素と酸素を反応させた水だけだ。冬にSORAの後方上部から煙突から立ち上るような白い気体が見えるが、あれは火災でも煙でも排気でもなく水だ。
冬は気温が低く飽和水蒸気量が小さくなり、排出された水蒸気が冷えて気体としては存在できなくなるので要するに「湯気」として目に見える。
さらに内燃機関とは異なり、起動と同時に最大トルクをたたき出すのがモーターの特徴だ。モーターで走る電車のような加速感は乗ったことのある方ならばご存じの通りだ。
あの強力な発進時の加速で音もなく滑り出すSORAの運行状況は、都営バスの運行情報ページからすべて見ることができるので、その気になれば狙って乗車することも可能である。