中国・浙江省の自動車メーカー、吉利汽車はメタノール自動車で知られている。2019年には世界初のメタノール100%燃料の大型トラクタを発表しているほか、2023年5月には「メタノール+電気」のハイブリッドトラックや「メタノール改質+水素燃料電池」トラックなどを公開した。
これらのトラックは9月に開幕したアジア最大規模のスポーツイベント「アジア大会」に投入された。同大会では聖火の燃料にもゼロ・カーボンのメタノールが使われるなど、中国がメタノールと先端技術の優位性をアピールしている。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/浙江吉利遠程新能源商用車集団有限公司
2019年に世界初のM100トラックを発表した吉利
中国の吉利汽車(ジーリー/Geely)といえばボルボ・カーズの親会社で、習近平国家主席との関係も深く、商用車ではダイムラーやボルボに出資しているほか、独自の商用車ブランドとして遠程汽車(Farizon Auto)を展開している世界的な大手自動車グループだ。
中でも特筆すべきなのは「メタノール」を燃料とする車両への投資だ。商用車分野では2019年には世界で初めてメタノール100%燃料(M100燃料)を使用する甲醇大型トラクタ(中国語の「甲醇」はメタノールの意味)を発表している。
近年、代替燃料としてアルコール類が注目されているが、ガソリンに添加できてバイオマスから合成可能なエタノールが脚光を浴びることが多い。メタノールは人体に有毒で金属に対する腐食性が強く、そのうえ重量当たりのエネルギーは軽油より少ないためあまり注目されてこなかったが、大量生産が可能で、コスト競争力には優れている。
また、再生可能エネルギーでメタノールを製造する研究や、メタノールを燃焼するのではなく改質により燃料電池の水素源として用いる研究なども進められている。
吉利の2019年のメタノールトラックは、M100燃料専焼エンジンを搭載する大型けん引車で、連結総重量は49トン、エネルギー密度の低さから、510L + 620L = 1130Lと大容量の燃料タンクを備えていた。なおメタノールはアルミ合金に対して腐食性があるためタンクはステンレス製で、漏れ防止の加工や腐食防止のコーティングなどが各所に施された。
当時、吉利は大気汚染物質の排出量がディーゼルエンジンより18%少ないと主張し、またメタノール分子自身に酸素を含むため酸素濃度の低い高地での性能低下が少ないという点も訴求していた。