キャブセッティングの土台。実油面が見えるクリアフロートチャンバー

キャブセッティングの土台。実油面が見えるクリアフロートチャンバー

 絶版車や旧車にとって欠かせないキャブレターは、エンジンに吸い込まれる混合気の空気とガソリンの比率を決める重要なパーツです。原付でも1000ccオーバーのビッグバイクでも2種類のジェットとジェットニードルで混合比を決めていますが、キャブセッティングの土台となるのがフロート油面です。数ミリ単位で設定されている油面を決めるにはいくつかの方法がありますが、透明のフロートチャンバーを用意すれば目視で確認することができます。

文/栗田晃

 
 
 

油面の高低がキャブセッティングに影響することもある



キャブボディに取り付けられたパイロットジェットとメインジェットは、フロート内のガソリンがベンチュリーに吸い上げられる際にガソリンを計量する。だがその量はジェットの穴径だけで決まるわけではなく、フロートチャンバー内部のガソリン量=油面によっても左右される。



フロートチャンバーにガソリンが入ってフロートが浮上し、フロートピン部分のフロートバルブが閉じると流入が止まる。その際にフロートチャンバー内に入っているガソリンの上面が油面となる。

ガソリンタンクからキャブレターのフロートチャンバーに流れ込むガソリンは、フロートと連動して開閉するフロートバルブによって制御されています。走行中にチャンバー内のガソリンが消費されて減少する=油面が下がると、フロートが下がってバルブが開いてガソリンが流入し、油面が上昇してフロートが浮くとバルブが閉じて流入が止まることで、フロートチャンバー内の油面は一定に保たれます。
そしてこの油面、実はキャブレターのセッティングにも重要な役割を果たしています。キャブセッティングはパイロットジェットとメインジェット、ジェットニードルの3点セットで行うのが基本ですが(さらに細かく言えばスロットルバルブのカッタウェイ角度などもあります)、ジェットの穴径が同じでも油面が変化すると混合比に影響が出ます。
具体的にはフロートチャンバー内の油面が低いと混合比は薄く、反対に油面が高いと混合比は濃くなります。フロートチャンバー内のガソリンは、ベンチュリーを通過する空気=エンジンが吸う空気の負圧と流量に応じて吸い上げられます。
油面が低いとベンチュリー底部とフロートチャンバー内のガソリンの距離が離れるため、吸い上げるには大きな負圧が必要になります。逆に油面が高いと、ベンチュリーとガソリンが接近するため小さな負圧で吸い上げることができます。
コップに入ったジュースをストローで吸う際に、ジュースの表面から上のストローが長いほど強く吸わなければ飲めないのと同じ理屈です。
そのためバイクメーカーもキャブレターメーカーも、油面の高さによってセッティングが変化しないようあらかじめガソリン油面を決めており、サービスマニュアルなどに記載しています。気温や気圧、標高などの条件もセッティングに影響しますが、ここでは油面に注目して話を進めます。

 
 
 

フロートレベルゲージで測定するのが一般的



専用工具のフロートレベルゲージはキャブボディの下面に2本の足を載せて、フロート下面までの高さを測定する。ノギスのデプスゲージでも測定できるが一点支持となりノギス自体が傾きやすいため、二点支持のフロートレベルゲージの方が取り扱いが容易。



フロート高さの測定方法は機種によって異なるが、フロートの調整板がフロートバルブのプランジャーに接するまでキャブレターを傾けて行うよう指定されていることが多いようだ。またフロート形状が円筒形の場合、もっとも低くなる位置(ゲージ上は最も高い位置)で測定する。

フロート高さの測定は、油面を知るための最も一般的な手段です。フロートチャンバーの外側から内側の様子を直接見ることはできませんが、キャブレターボディとフロートチャンバーの合わせ面からフロート下面までの距離=高さによって置き換えるのです。
このフロート高さは機種ごとに違いがあり、サービスマニュアルに記載されています。専用工具のフロートレベルゲージやノギスのデプスゲージで測定した実測値が規定値より大きい(フロート下面まで遠い)ほど、少量のガソリンでフロートバルブが閉じるため油面が低くなり、測定値が小さい場合は油面が高くなります。
規定値には一定の幅がありますが、それ以上ずれている場合はフロートバルブと接するフロート根元の調整板(ベロ)を曲げて規定値内に収まるように調整します。
調整板が金属製の場合は調整できますが、小~中排気量車用キャブの中には樹脂製のベロを採用しているものもあり、この場合は油面調整ができません。サービスマニュアルには標準値以外の場合はフロート自体を交換するよう記載されているので、その指示に従うしかありません。

 
 

ドレンパイプ付きフロートならチューブで油面測定できる



フロートチャンバー下部のスクリューを緩めるとガソリンが排出できるドレンパイプ付きキャブレターは、パイプに適当なチューブを差し込んでスクリューを緩めるとフロート内と同じ高さまでガソリンが上昇して実油面を測定できる。



キャブレター本体とフロートチャンバーの「合わせ面から◎(下)~△(上)mm」というデータが出ている場合、目盛り付きのフューエルレベルゲージで確認した油面を元に調整できる。標準値より測定油面が低ければフロートが現状より上がった位置でバルブが閉じるよう調整板を曲げ直す。

フロート高さの測定値を油面に置き換える方法に対して、フロートチャンバーにドレンパイプが設置されているキャブレターであれば、パイプ式のゲージでフロートチャンバー内の油面を確認するやり方もあります。
フロートチャンバー下部のパイプにはチャンバー内部のガソリンを抜くためのドレンパイプと、油面が上がりすぎた際に余分なガソリンを排出するオーバーフローパイプの2種類があり、測定で使えるのはユーザーが任意にガソリンを抜くことができる前者です。
ドレンパイプに透明のチューブをつないでドレンスクリューを緩めると、チャンバー内のガソリンがチューブ内に流れ込み、フロートチャンバー内の油面と同じ高さになります。両者が釣り合うのは、フロートチャンバー内もドレンパイプから取り出したチューブにも等しく大気圧が加わるためです。
このパイプをキャブボディとフロートチャンバーの合わせ面の横に置けば、実際の油面がフロートチャンバー内のどこにあるかが分かります。ただしこの場合もフロートレベルゲージ測定と同様に、サービスマニュアルに「合わせ面から0.5(下)~1.5(上)mm」などと実油面の標準値が記載されていることが前提となります。
裏を返せば、この数値が分からなければ測定しても正しいのか調整が必要なのかも分からないので、データを入手することが前提となります。

フロートチャンバーがクリアなら実際に流れ込むガソリンが見える



社外品のキャブレターの中には専用クリアフロートチャンバーが販売されている例もあるが、透明の容器であれば代用が可能。ここではガラスのカップを流用した。フロートが作動する際に接触せず、開口部がなるべくキャブボディに密着するサイズの容器を用意すると良い。



透明容器に載せてガソリンをつなぐと、フロートバルブが開いている間はガソリンが勢いよく流れ込む様子が分かる。走行中はベンチュリーに吸い出されるガソリンとフロート室内に流れ込むガソリンが釣り合うはずだが、エンジンチューニングなどでガソリン流量が多くなり供給不足になるような時は、流入量を増やすためフロートバルブシート径を拡大することもある。



フロートが完全に浮き上がってバルブが閉じると流入が止まって油面が安定する。油面データが分からないと判断のしようがないが、標準値があれば調整が可能。キャブレターによっては油面がボディとフロートチャンバーの合わせ面より上になるものもあり、その場合ガラスカップなどの汎用品では上部から溢れてしまうので要注意。

フロートチャンバーにドレンパイプがないキャブレターでも、実際の油面=実油面を確認する方法があります。それがクリアフロートチャンバーを用いる方法です
社外品のキャブレターの中には純正形状と同様のクリアフロートチャンバーが販売されている例もありますが、キャブレターボディの下面にぴったり合う透明の容器であれば代用が可能で、ここではガラス瓶を使用しました。
透明容器を使用する際は、フロートが作動する際に容器に触れないこと、キャブレターの種類によってはボディの合わせ面より油面が高く、容器からガソリンがこぼれる可能性があることを認識しておくことが重要です。
フロートチャンバーがクリアだと、チャンバー内に流れ込むガソリンや油面の上昇に合わせてフロートが浮き上がる様子、フロートが上がりきってフロートバルブが閉じてガソリンの流入が止まるまでの一連の様子を目視できます。
この方法でもドレンパイプにチューブを差し込むのと同様に、サービスマニュアルなどで実油面データを把握できないと、観察はできても適正値に調整することはできません。しかしながら、調整板を曲げることで実際の油面がどのように変化するかを見ることで、油面がどのように決まるかを知ることができ、メンテナンスやセッティングの一助になるのは確かです。
また純正と同じ形状のクリアフロートチャンバーがあるキャブレターなら、4連キャブの実油面比較も容易にできます。フロートレベルゲージで4つのフロートの高さを同じにしたつもりでも、フロートバルブ後部のプランジャーと調整板の触れ方に微妙な差が生じて実油面が変化することがあります。
多連キャブの場合、各ボディごとの油面のズレが混合気に影響することも考えられるため、実際にフロートチャンバーにガソリンを流して確認する実油面測定の方が、より信頼性の高い調整ができるという意見もあります。
もし可能であれば、クリアフロートチャンバーを利用した油面測定を行ってみてはいかがでしょうか。

POINT

 

  • ポイント1・キャブレターメンテナンスやセッティングの際に、最初にフロートチャンバー内の油面を把握し調整することが重要
  • ポイント2・油面の確認にはフロートレベルゲージを用いる方法やドレンパイプにチューブをセットして実油面を測定する方法がある
  • ポイント3・透明の容器を用意してクリアフロートチャンバー代わりにすることで、ガソリンが流入してフロートバルブが閉じるまでの動作を目視確認できる

 

詳細はこちらのリンクよりご覧ください。
https://news.webike.net/maintenance/502580/

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