世界ではBMWが「シルキーシックス」の愛称とともにその存在感を発揮してきた直6エンジンだが、日本の直6も負けてはいない。
特にかつてスカイラインGT-Rに搭載されたRB26DETTエンジンは、やはり日本を代表する直6エンジンだろう。
レーシングエンジンをロードカーに落とし込んだRE26DETTは鋳鉄ブロックと、その圧倒的な性能で多くのクルマ好きを驚愕させたことはご存知なはずだ。
近年、そんな高性能の代名詞だった直6エンジンも重量やスペースの問題もあり数を減らす一方だったが、ここにきてベンツが復活させるなど動きも活発。
そしてなにより最新のスープラにもBMW謹製の直6ユニットが収まることも忘れられない。スープラのエンジンはかつての日本のスポーツカーの名機だったRB26DETTを超えたのか?
メカニカルの観点から分析しよう。
文:渡辺敏史/写真:編集部、日産
■スープラの直6はコンパクトな車体実現のためにも工夫がなされる
新型スープラの開発において、BMWとの協業を決断させるほどにこだわったという直列6気筒エンジン。
今日びメルセデスやマツダが新たに開発することにもなった背景は、一次振動がない質感面での素性のよさに加えて、現在の環境規制を取り巻く課題がある。
まず排気浄化のための補機類はその数が増すいっぽうで、排気系統が2つに分かれるV型でそれに対処するのは直6よりもコスト面で明らかに不利だ。
そして米IIHS(編註:米国道路安全保険協会)の25%オフセット衝突テストに対処すべく、フロントメンバーの形状を変えたいという思惑にも、縦置きで狭幅化される直6は適合性が高い。
さらにMBD(編註:モデルベース開発の意。すべての動作を数値化した設計や開発を行うこと)やモジュラー化など、昨今の潮流に則れば、3・4・6気筒の開発生産を一括的に管理できる。
いち早くそこに着手していたBMWは、彼ら曰くの理想燃焼環境という気筒あたり500ccのモジュール構造で1.5L 3気筒〜3L 6気筒を展開。
前世代よりさらにロングストローク化された3L 直6はB58系として各モデルに搭載されている。スープラのそれはメカニカル面においてはZ4のM40iと同じだ。
ボアストローク比ではトヨタのダイナミックフォース系に比肩するロングストローク、そして最新設計によるボア間ピッチの小ささも相まって、そのエンジン長はとにかく短い。
そのぶん高さ側に嵩むことになるため、シリンダー部を若干傾けて搭載することで歩行者保護などのクリアランスを確保している。
スポーツカー的見地でいえば、エンジン長の短さは前後重量配分50:50の達成と、ボディのコンパクト化およびショートホイールベース化を両立しやすいというメリットがある。
スープラはその恩恵をもって、FRらしからぬシャープな旋回感を実現しているといえるだろう。
■とにかくレースに勝つためだけに生まれたRB26
今から30年前に登場したRB26DETTはグループAホモロゲの関係で決められた排気量とそれにまつわるチューニング耐性の強化がはじめから織り込まれた、燃費云々は完全に二の次というエンジンだ。
B58系とは真逆のショートストローク構造は高回転使用を前提としたもの。
それゆえ高強度を狙った鋳鉄シリンダーヘッドに各気筒独立の6連スロットルと、今やスーパーカーでもためらうほどの荘重なメカニズムによって巨大化したエンジンは、第二世代GT-Rの代名詞であるアンダーステアを助長する主因として疎まれることもあった。
それでもチューニングを施したRB26DETTが放つ500ps向こうの強烈なパワー、そして同時にその伸びやかなエキゾーストノートとメカノイズが入り混じった快音は、多くのクルマ好きを魅了した。
そんなRB26DETTも今乗れば、ノーマル同士の比較だとファンファンと緻密に軽快に吹けきるB58系に対しては時差分だけ旧い、トラックのようにガサガサしたフィーリングだろう。
一方で、B58系はいい意味での贅肉に乏しいギリギリの設計で、大胆なメカチューンには向かないことは想像に難くない。
教科書的な高効率は明らかにB58系に分があれど、弄るほどに血湧き肉躍るというクルマ好きの琴線直撃な油臭さはRB26DETTの側にある。
コメント
コメントの使い方